攘夷派で伍の御題


この日は普段より早めに店を閉め、娘は家の奥に下がった。独りで夕食を済ませ、独りで窓のすぐ外に広がる海原を眺めては時の流れを感じていた。
祖父が日を跨いで家を留守にすることはそんなに珍しいことでは無かったので、娘はこうして独り静かな夜を過ごすのには馴れていた。


――が、しかしこの日はその静寂な時間を思考を馳せる事で送っていた。


祖父の代わりに昼間自分が応対した天然パーマの男。
彼とあんなに長い間接し、たくさん問答を交わしたのは初めてだった。それ故に、娘は思い悩んでいた。

今まで彼への見解が狭すぎ或いは間違っていて、なおかつそれをそうだと決め付けていたのでは、と…。
いつも笑ってばかりで現実を何も考えてない、馬鹿な奴だと…。
お金持ちの家の倅に生まれ世間知らずで好きなように生きて、だから自分本位にも攘夷戦争に仲間を残して帰ってきた…
自分のやりたいことしか見えていないただのわがまま男ではないか。…そう思い込んでいたけれど、

『…この船に乗れば…戦争で失ったもん補うだけの幸せばたくさんの人に与えるっちゅーのは可能かのぅ?』


先刻の横顔を見てからは、今まで坂本に対しあんな態度とっていた事に対し、なんとなく後悔のようなものを感じ始めていた。


「……わしも考えすぎじゃ」

そんなに、あの男が考え深そうには見えない。


「…寝よ寝よ」


しかし、布団に潜ってもなかなか眠りつけない夜だった。




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