攘夷派で伍の御題
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「―――…」



微かに小鳥のさえずりがするのが聞こえた。
格子から漏れる朝日が囲炉裏を照らしていた。


「……」


今まで見ていたものは現ではなかったことに、女は内心溜め息をついた。


「…………Σ!!」

女は飛び起きた。小屋の中がやけに静かなのに異変を感じ。


「……」


見回したが、やはり姿はなかった。
土間に下りて小屋の奥を覗き、戸も開けて朝露に輝く外に視線を巡らせた。


「……白夜叉…さん?」


名を呼んだが、返事も返ってこない。


朝露滴る小枝の葉が小さく上下に揺れた。


「………私、寝ちゃった…」


男の看病を続け、気が付いたらどうやら自分も眠りについてしまっていたようだ。

もう一度家の中を振り返ると、格子の向こうに揺れるところどころ綻びてしまった黒い着物が目に入った。
釜戸の近くに置いておいた鎧や刀も無くなっていた。


「――……」


男は去っていった。

眠る女にそっと別れを告げ、朝日が昇ると共に戦場に戻っていった。



「…寂しい…」


一日前男が崩れ込んできた戸にそっと触れて溢した。


 さびしい

今度は素直に言葉になって出てきた。
けれども、決して暗く切ない寂しさではなく、何となく、嬉しさと満足感に満ちたそれだった。


格子越しに、揺れる兄の着物をただ見つめた。

束の間の男との時間は女の一人の暮らしに日差しを降り注いだのだった。


とても暖かい安らぎだった。



女は囲炉裏に腰を下ろし、プスプスとまだ煙が消えきらない炭を見つめた。






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あきゅろす。
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