攘夷派で伍の御題
13
血まみれになった銀色の髪の間から、見馴れた虚ろな瞳が覗いている。
「お兄さんの着物を…申し訳ねぇ…」
「………ぁ……」
思わず手を伸ばし目の前の人物の腕を掴んだ。その存在を確かめようと…
黒い着物はボロボロに刻まれ血と泥と雨に濡れていたが、
…間違いなかった
「――ッ…………」
男の膝の上に女の身体が崩れた。やっと、身体に血が戻ってきた気がしていた。
侍の身体越しには無惨に転がる天人たちの骸が見えた。
汚れちまったな、と男は女の頬に飛び散った血を親指で擦った。そしてそっと、しかし強くしっかりと女の身体を抱き締めた。
男が自分に込めてくる力に女は安心感を抑えきれなかった。
途切れたかと思ったこの男との空間がまたしっかりと繋ぎ合わされたのを、身体で感じることができた。
「…よかった…」
にわかに気持ちが落ち着いてくると、男の呼吸と心音が荒いことに迂濶にも今更ハッとした。
「……家の中へ…。傷を見せてください」
苦痛に声を漏らしながら肩で息をする侍を、女は家の中に運び込んだ。
もはや兄の着物も着衣の意を成さないくらいに斬り破られていた。
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