攘夷派で伍の御題
12








――ポタッ



雨が



ポタタッッ―――



いや、雨だけではない。
溢れ出した涙も、地面を打ち付けた。

辺りは急に静まり返り、代わりに空から落ちてくる雫が地を叩く音しか聞こえなくなった。


まるで女の心理を空が映し出したかのように、一つ一つの粒音がだんだん聞き分けられなくなるまで、

悲しい雫がたくさん落ちてきた。



銀髪の侍が自分の家に倒れ込んで来てから、まだほんの一昼夜も経っていない。

名前も、出身も知らない。

“白夜叉”という呼び名でさえも、今しがた天人の口から聞いたものだ。


それなのに、いつの間にかこんなにもその男を切に想ってしまっていた自分自身に、女は驚いていた。

古い小さな静かな小屋でたった二人で過ごした時間は、実際とても短いものだったのに永遠のものだったようにも感じ。

だが、そんな幸せな時間がこんなにも呆気に閉ざされてしまった…
茫然自失さが女の心を占めていた。




―――ジャッ…


やがて伏さる頭の向こう側から泥地を引きずる音が聞こえて、


…ジャッ


それはこちらに近づいてきた。



ジャッ ジャッ…


「……」


女はぼーっと考えていた。きっと、自分も無事では済まないだろうと…

口元に握り締めたままの両手はもう己の物でないかのように神経が無くなっている。




―――ドシャ…


自分のすぐ頭上で人が地に座り込んだ。


「……」


震えさえなくなってしまった。

次に自分に振りかかってくる出来事を、ただ待った。

だが、

――トン…

「!」


女の肩に手が置かれた。
感じたことのあるしっかりとした温かいその手の感触に、女はまさか、と顔を上げた。


「――……」

「……またやっちまったよ…ヘヘッ…」



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