攘夷派で伍の御題


娘の通う墓は、墓地の入り口から一番離れた最奥にあった。

途中、磨かれた大きく立派な墓石や、逆に寂れてしまった古い小さなものなど、様々なものを目にする。



しかし、その中でいつも気になっていた墓があった…



「…来ないわね」



墓石自体は大きく構えられているのに、花を生けられているのをほとんど見たことのない、

「吉田松陽さんのお墓…」



達筆に彫り刻まれたその墓の主の名は、この娘にも認識があった。



「大層な先生だったって聞いたのに…誰もお参りに来ないのかしら」


娘は墓石の前に膝を着き、胸の前で手を合わせた。

桶の中の残りの水を全て使い、丁寧に墓石を冷やしていった。


「吉田先生、ごめんなさい。お花はもう持ち合わせてなくて…」


娘は自分の髪を纏め上げた花飾りの簪を抜き取り、そっと墓前に置いた。

「これで堪忍してくださいまし」

零れ落ちてきた長い髪を耳にかけて短く合掌した。



吉田先生は、この辺りの攘夷思想を先導した人物だと聞いた。

彼の人望の厚さを慕い、多くの若い武士が集ったのだ。


――もしや、その教え子達も無事には済まなかったから墓参りに来れる者もいないのかもしれない…。



「………」


夏も後半を知らせるツクツクボウシの鳴く声が、娘の耳に悲しく響いた。


彼女の父も、戦争で負った怪我が元で亡くなったのだった。

自分と、まだ幼い弟達を残して。



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