攘夷派で伍の御題


突如群れの奥の方で、斬切音と悲鳴、大量の血飛沫が高く吹き上がった。

女を掴んでいた天人も動きを止めそちらを振り返った。


「――な゙ッ …」

―――ザンッッッ…


しかし自分の後方で何が起きたを理解する前に、その天人は上から振り落とされてきた白刃によってその場に崩れた。

女の目の前で血飛沫が舞い上がり、彼女の腕を掴んでいた手も急に力無くズルリと地に落ちた。

自分の視界で次々に起こることに意識が付いていけず、女は足の力が抜けてその場にへたり込んだ。


「――っと」


ところがそれを寸止めで助けあげた者がいた。


「――…」


女は徐々に視力に意識を取り戻し、自分を支える人物を見ようとした。

黒い、見覚えのある兄の着物…


「…薄汚ねぇ手でこの女に触んな」


「―――…」


女の身体をしっかりと支えているのは

銀髪の侍…





「――ッ貴様やはり生きてたか死に損ないめェェ!!!!」

「落ちぶれのサムライはととっととくたばっちまいなァ!」


気を高揚させた天人たちが一斉に襲いかかってくる。
男はその敵の群れを一瞥してそして女に言った。


「わりィー、目でも瞑っててくれや。女にはちとグロすぎる」


男はそっと女を降ろし、敵に向き直った。


「…そんな…あなた…」

いくらなんでも多勢に無勢だ。しかも手負いだというのに。


「…何で戻ってきたのよ!?何で生き長らえようとしないのよッ!」


力一杯言葉をぶつけたが、男は背を向けたまま静かに答えた。


「武士は己の信念を貫くのを生き様とする。武士は護るべき物を護るために戦う。…だがよォ」


声を上げながら襲いかかってきた天人を、身をかわしながら切り捨てた。


「何かを護るために信念を曲げることも、信念を貫くためにその場を凌いで生きていくのも、俺ァどっちも好かねェ」


斬っても斬っても湧いてくるような天人に、男が苦痛に堪えながら向かっていっているのは女が後ろから見ていても明確だった。


「…わりィが俺はがめついんでね。信念も、護るもんもどちらも取るぜ」


そして男は顔だけで女を振り返った、


「俺の信念は、そこにいる女を護ることだ」


その口元は優しくしっかりと笑っていた。


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