攘夷派で伍の御題


咄嗟に二人は顔を見合わせた。男を追ってきた敵が、この小屋を見つけたのだ。


「――こっち!地下通路があります。早く!!」


女は土間に下りて男の鎧やら刀やらを持ってきた。
そして土間と板の間の境にある、人がやっと通れるくらいの板を外して男をそこへ導いた。


「この先、ずっと行くと海の岩屋に続いています。私の父と兄が掘って繋げた道です」


板を通り抜けると、先は案外広くなっていた。
男は暗闇の中に潜り込み、地に足を着いた。そして板の向こうからこちらを覗く女を振り返った。


「、何してるんですか、早くしないと…!」


男は慌てて先を促す女の右手を手を伸ばして掴んだ。


「え!?」

「一緒に来い」

「――…」

「……」


女を見つめる男の目は、出会ってからは今初めて見た、とてつもなく真剣な、強い眼差しだった。


「……っ」


強く胸が痛んだ。
男がくれた言葉と視線に嬉しさで胸が一杯だったというのもあるが、


「…いえ、ここが私の家ですから…」


兄へのわずかな望みと残された自分への責任から、男の気持ちに答えられない事に息をするのも苦しかった。


「……」


男もまた無理強いはできなかった。

自分といれば、この女までも巻き込むかもしれない。
自分の信念を貫いたがために、目に見える大事なものをまた失うことになるかもしれない。



――ドンドンッ

「…いねぇんじゃねーのかァ?」

「いや、だってさっき湯気が出てるのが見えたぜ?」


敵の数は結構あるようだ。武器やら鎧やらがぶつかり合う音や、ざわめく声は複数もいいところ。


男は女の手をそっと離した。


「…この恩は忘れねぇ」

「そういうことは…全て終わらせてから考えてください」


微かに、女の瞳に揺らめくものが浮かぶのが見えた。


「…最後まであなたの志を貫いて…どうか生きて……」

「……世話んなった…」


――パタン

男が暗い地下に消えるのを見送ると、女はそっと土間の板を元に戻した。


そして、裏口へ走った。




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あきゅろす。
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