攘夷派で伍の御題







「――――…」


格子から漏れて入ってくる外の明るい光が男の顔を照らしていた。

日光が久しく、こんなに眩しい物だったかと男は一度開けた目をもう一度閉じた。

すると静かな空間の中に、何かを煮沸する香りとクツクツという耳に心地よい音が聞こえてきて、男は囲炉裏の方へ頭をもたげた。

見るとそこには女が背を向けて座り、何やらを煮込んでいる様子。湯気が天井へ向かって上がっていた。


「いーー匂い♪」

「Σぅわッ…びっくりさせないでくださいよυ」


肩元から囲炉裏を覗き込んできた男に、彼女は跳ね上がった。


「…起きてたんですか」

その拍子で木目の大さじを落としそうになったのをかろうじて持ち直し、女は胸を撫で下ろした。


「おかげさまでだいぶ楽になりました♪」


ヘラッと笑う男に女もにっこり微笑んだ。


「でも完璧ではないんだからまだ無理はしないで下さいね」

はいよー と返し、男はフラッと立ち上がる。


「そろそろ水飲んでいい?」

「あ、その甕(かめ)の中に入ってます。一気飲みしないでゆっくり少しずつですよ」


女の指差す土間の方へ降りて柄杓を手に取り、喉を鳴らして掬った水を渇ききった口に流し込んだ。女に言われた通り、ゆっくりと、少しずつ。


「――プはッ!うめぇっ」

「あ、それから、良かったらそれ着てください。兄のですけど。あなたの服だいぶ汚れてたので」


言われて振り返ると、先ほどまで横になっていた布団の脇に黒い着物がたたんで置かれていた。


「最近は雨とか曇りで気も滅入るような毎日だったけれど、何か今日は天気が良いみたいなのでもうそろそろ乾きそう」


先程は見えなかったが格子の向こう、小屋の裏側に男の白い戦着が風に揺れていた。
ところどこにだけ血の染みが残っているのが、女が持ち主の眠っている間に懸命に洗い落とそうとしてくれたであろうことを物語っていた。


「…もうありがとう以上にありがとうな言葉、あったら俺ァ知りてぇよ」


銀髪を掻きながら、男は女の用意した着物に袖を通した。



「お粥作ったので召し上がってくださいね」

「おー。腹減って今度こそ死にそうだ」


ふふ、大した具は入れられませんけど、と笑って、粥をよそった椀を隣に腰を下ろした男に手渡した。


「いただきまーす――っふァッッあ゙づゥッ!!」

「やだちょっと!?気を付けてくださいよぉ!舌は手当てできませんよ私っυ」


男の失態に、小屋に笑い声が響いた。


「…うめェよコレ。作り方教えてくんない?」

「はははっ内緒ー。私の長年の賜物なんですから」

「そこを何とか、お嬢さん。コレ絶対売れるよ。仲間んとこ持って帰っていい?コレ」

「本当におもしろい人ですね。お米ついてますよ、口の下」


がつがつとさじを口に入れる男の食べっぷりを、女は笑って見守った。





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