攘夷派で伍の御題


男の薬との闘いもようやく終わり、女は筒状になった包帯を男の身体に当てて丁寧に転がし巻いていった。
手早いその手つきに男は感心した。

「……慣れてんのな」

「兄もよく怪我して帰ってきましたから、無茶して」

だからか、と納得できた。

薬を塗り、薄布を当てた傷口部分がみるみる白く覆われていく。


「――よし、できた」


女が手を止めて、一息ついた。


「いやァすんませんホント。ここまでしてもらっちゃって」


男は笑顔を向ける女に身体ごと振り返ると、頭を下げて礼を告げた。


「俺、追われてる身なんでそろそろ行きますわ。仲間もいるし。あんまり長居するとお前さんにも災難かかるかもしれねぇから」


よっ、と膝に手をついて立ち上がろうとした。


「お世話になりまし――…」

ドサッ

「Σちょっとυ」

「……アレ。何か思ったよりヤベェ…」


再度地に崩れた男に、女は慌てて側へ寄った。思い通りにならない自分の身体に男は苦笑いしていた。


「出血しすぎたんですよ。ここまで相当の気力だけで走ってきたんですね。…もう少し休んでったらどうですか」


助け起こされて男は小さく息を吐いた。


「……わりィな…ホント」



ここしばらく、こんなに気の落ち着ける時は無かったなァ、と男は女に用意された布団に横になりながらしみじみとしていた。

毎日毎秒、どんな時も気を張り巡らせて敵に立ち向かっていく、常に生死をかけた極限のやりとりの中での精神状態は計り知れないほどの疲労感を伴った。
しかも長く継続するとそれが当たり前になってしまうようで自分たちではなかなか気が付かない。精神が折れなきゃ大丈夫だと、何度己の身体を叩き起こしてきたか知れない。


もうそろそろ夜明け時なのか、視界に入る真上の天井がだんだん薄明かるくなってきていた。女の家に倒れ込んでから、もう時間は結構経っていた。

けれど自分に襲いかかってくる敵の大群や、いつの間にかはぐれて姿が見えなくなった仲間たちの顔が相変わらず頭から離れなかった。

しかし、その一方で、

もう少しこの小屋にいたい…

そういう甘い想いがどこかにあるのにも、男はしっかり気付いていた。


痛む身体を包む温かい布団の中で、ゆっくりと瞼を閉じた。





[*前へ][次へ#]

4/17ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!