攘夷派で伍の御題







「とーさん、私もとうとう身を寄せる場所が決まったのよ。
もう安心してください、これで弟達を養っていけるわ…」



墓地の片隅にひっそりと佇む我が父の墓にもう一度柄杓で水を掛け、娘は静かに手を合わせた。


残暑も厳しい、まさに石も焼けるような昼下がりだった。
娘は毎日のように墓地に通っては、亡き父親に自分達の様子を報告するのだった。


「…さて、明日からは京で働くの。もう支度をしなくちゃ。旅館の主人が迎えに来るわ。
すごいでしょう?やっと私達もまともな暮らしができそう」

ゆっくりと立ち上がり、もう一度父の刻名を見つめた。


「もうあまりここへは来れなくなるかも知れない。許してね、とーさん…」


供えたキク科の野花が夏風に揺れた。

女は悲しげに、だがしっかり笑んで、踵を返した。








《所詮ただのエゴ》

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