色は匂へど散りぬるを
4
破損物を責任持って片付けたごんみ(名)と神楽はひとまず落ち着いた。
「もー汗かいちゃった!お風呂借りるね銀ー」
「おう。その広いデコに溜まったナマイキ全部洗い流して来い」
「あら。一緒に入る?その白髪墨で染色したげる」
「銀だバカヤロー」
「銀ちゃん、私定春の餌買いに行ってくるネ」
「あ、じゃぁ神楽ちゃん、スーパーの特売に付き合ってよ」
「しょうがないアルな」
居間には家主ひとりが残ってテレビを見ている。静かになった居間、テレビの笑い声の中に混じるやや遠くに聞こえる水音がいやに耳につく。
「…」
目の前に映るクイズ番組に集中できない銀時は自分に若干苛立っていた。
と、その時電話が鳴った。
「はいもしもしィ?」
『どうも。沖田です』
「どうしましたァ?」
『旦那ァ、ごんみ(名)そこにいやすか』
「おー今風呂入ってるよ」
『ちょいと覗いてきてくだせィ旦那ァ』
「てめー俺をサンドバッグにしたいの?」
相手は下町訛りの強い真選組随一の腕利きだった。彼が電話の向こうで『今デパートにちょいと来てるんですが』と言う。
「オイコラ上司に叱られるよ?」
『ごんみ(名)が下着ほしいって言ってたもんでねェ』
「税金泥棒中にサボって?」
『ごんみ(名)ってどのくれェなんすかねェ?胸』
「知るかよ〜。本人に聞いてください。つかすいませんねェ総太郎くん、あいつのそんな世話まで」
『総悟です。ごんみ(名)がブラ持ってねーって言うもんで。そりゃァいけねェやと』
「あぁそりゃな、だってよォこないだまでアイツは――…」
『…何ですか旦那』
かろうじて銀時は言い留まった。
「…てゆーかァ知ってる?昔の女はみんなノーブラノーパンだったんだぜ知らなかったろお前知るわきゃないだろお前」
『どーなすったんでィ』
「わーったよ。聞けっていうのかアイツに」
『いえ、ごんみ(名)自身が分からねーみてぇですぜ』
なおさら、何で俺に聞くんだよと銀時は眉間にシワを寄せる。
『旦那なら知ってんじゃねーかと思ってたんで』
「…何で俺」
『アラ、デキてるかとてっきり』
「とんだ誤解です」
『何でィ』
ガキん頃はそりゃよく一緒だったが、互いに大人になってから会ったのはついこないだだ。しかしアイツは変わらない。
『いや、俺もなかなか休める時無いんでねェ。ごんみ(名)に付き合う時間がねーもんで今日行こうと思ったんですが、何か今朝飛び出してったんで』
「おー避難してきたよ。おかげでうちが二次災害だコノヤロー」
『それァご迷惑を』
「お互い様」
じゃァ旦那ァ、と沖田が繋ぐ。
『コレなんかどうでしょーかねィ?』
「どれ」
『ハート型のワイヤー入り』
「…」
『もしくはー…首輪とセットになってるやつ』
「…」
『ああ、こんなのもありやすぜィ。リモコン付きで』
「おめーどんな店にいんの」
沖田は「本人がいなきゃ分からねーや」と、銀時は「そのうちお妙にでも頼むからいらねーよ」と受話器を置いた。ごんみ(名)が現代の下着を欲しがるとは、と若干感心しながら。
「あぎゃあーーーッ!!!」
「オイオイ何だよ。出たのか?」
「ちょっ!ちょっ――…」
どうやら予測は当たっていて、風呂場にごんみ(名)の天敵が現れた。ガタガタと逃げ惑っている様子が物音から想像される。悲鳴を聞いて銀時は浴室に向かった。脱衣場の壁にもたれ掛かって
「助けてあげましょうか」
と言ったが、中からは
「いい!ド助平!」
と罵声が放たれた。言われて男は踏み留まった。
「かっ神楽ちゃあんんん!!」
「神楽は定春の餌買いに行った」
「っ新八くんん!!」
「一緒に買い物。…つーか新八は良いわけ?」
「新八くんはそういう人じゃないもん!」
「俺はどういう人だオイ」
「銀みたいに変態なこと考えない新八くんは!」
「おめーあの年頃はなァ一番男はムラム…」
「あぎゃー!来るなぁぁぁっ!」
洗面器が転がったり浴槽が鳴ったりする。人が無防備な時にこいつはー!と泣きそうな叫び声が中で反響している。
「定春ぅぅぅー!」
「定春以下かよ俺!?」
「……」
「…」
ピタリと音が止み、
「…じゃああそこにいるので早くやっつけてください」
とカタンと扉が開いた。ごんみ(名)が浴槽の中でその蓋を前に抱え、白い腕がある方向に伸びている。
「……」
銀時は上目に凝視してくる娘にちらりと視線を向けたが、後は彼女が指差す先に丸めた新聞紙を一振り振り落とした。
天敵がポトリと音を立て男に身柄を拘束されていくと、ごんみ(名)は「…ありがと」と小さく言って扉を静かに閉じた。
「……」
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