色は匂へど散りぬるを
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ごんみ(名)さんと言えば、この屯所にいる者…少なくとも平隊士は彼女の素性を知らない。分かっているのはあんな強烈な再会現場を見せつけられたとっつぁんの旧知であった事と、後はまぁそこそこ育ちはいいんだろうぐらい。別に彼女がどこの誰であったってみんな気にしていない。彼女が話したがらない事は深追いしない。俺らは悪事働いたやつらには厳しいが一般人にはいたって親切なのだ。江戸って街はそもそもいろんな事情を抱えた人々の集合都市であるわけだし。
育ちが良く見えるというのは彼女の仕草の端々、本当にさりげない部分で品格が窺えるところからである。隊士全員がそれに気付いてるかどうかだが、俺の眼はごまかせないぞ。ちょっと立ち上がる時だとか静かに微笑むところとかに本当に細かな風流がある。アレは絶対に育ちはいい。
「ねっねっ、この絵草紙…どう読むの?」
「ああ、漫画、」
けれどそうだとしたらあの世間知らずさはどうであろう。…いや、箱入りだったため門外の世間のことはつゆ知らずだったのか。車…今や街に溢れているそれに乗ったときのごんみ(名)さんのあの興奮のし様や、近くに店があってもわざわざ自販機にGGレモンを買いに行く自販機に対するあの関心やら執着は何だろう。電話の使い方さえ受話器を取ってから番号を押すのだというところから教わっていた。パソコンであらゆる情報を得たり写真や動画を見たりゲームをやった時のあの目の輝かせようは?いくら言い直してもミントンのことを羽子板遊びと呼ぶこだわりは……?
「――オイ山崎ィ、何してんだ」
「ああ、日記です。日頃からこうして物事を感じとる目を養おうと。題して“サガルの監察日記”〜♪」
「捻りもねー名前だなァ」
「え゙、別に捻る必要も無いかなーって思ったん…」
「見せてみろやィ」
「あ゙あ゙あ゙そんな、人に見せられるような物じゃ」
「…何でィこりゃ。ごんみ(名)の事ばっかじゃねーかィ」
「いやぁ、今日はたまたまですよ」
「何が監察日記だ。コレじゃァ“ごんみ(名)の観察日記、リポーテッドバーイ山崎ジミ”じゃねーか」
「ちっ違いますよ。しかも捻った感じなの最後の俺の名前だけじゃないスか」
「ならコレァどーでィ。…“山崎地味太(スペース)ごんみ(名)の観察日記(“地味太”は“染みた”と掛けている)”」
「何スか()って。特に最後の。地味は外せないんですね。というかなんかちょっと気持ち悪くないスか、山崎染みたごんみ(名)さんの観察日記、て事ですよね要するに。伝わらなくないけど無理矢理ですよね」
「オメーの方が気持ち悪いんだよ。地味に観察すなィ」
「ていうかそれを書くなァァァー!!」
「嫌だねィ、こんな事書かれてごんみ(名)がどんな顔するか」
「――えっあ゙あ゙あ゙どこ持ってくんスか沖田隊長ー!!??」
ヤバイ!この人の性格だ、ごんみ(名)さんに見せる前に他のみんなにも触れ回す―――
…バチ バチ…パキッ
「Σ火で焼くんだ!?」
「そーいや近藤さんが探してたぜィ」
……ペンダコの努力の結晶が…
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