色は匂へど散りぬるを




ヒトの人生って繰り返しだと、つくづく思う。


楽しいことが立て続けに、
悲しいことも立て続けに起こった。

そして今、嬉しいことが立て続けに起こっている。



「心配するこたァねーごんみ(名)。おっちゃんが何としてもお前に安全な道を開拓してやるからな」



けれども立て続けに起こるたくさんの嬉しいことも、複雑に絡み合うとどうにもならないことになる。



「…おっちゃん?」


今日はおっちゃんに幕府の中央官庁に連れて来てもらった。部屋を用意するのでここに身を寄せなさいとのこと。


「あたし、天人に守られることになるの?」


走らせる車の中で隣からの答えはなかなか返ってこなかった。ごんみ(名)は視線を窓の外へ流した。


「それが一番安全なんだよごんみ(名)」

「…じゃぁ危険でいい」


あたしやっぱり天人の下に付くのは嫌だ。せっかくそれから逃げてきたのに。

官庁の邸の中ですれ違った天人に松平が深々と頭を下げている姿を間近で見てしまった。ごんみ(名)は衝撃的な光景が頭からずっと離れなかった。


「お前の国の奴らとは違う。天導衆と日本は正式な契りを交わしている。だが碧雲人は不法入国で本来取り締まるべき輩だ」


碧雲人――…

ふるさとを占拠している、懐かしくも忌々しい名を聞いて窓に映る自分に向かって眉をしかめた。
ごんみ(名)は知っていた。幕府がなかなか碧雲人を粛正できない理由、遠くの巨星で恐ろしく発達した文明を繰り広げるので、地球を守る以上彼らとの反発は避けるのが賢明というものだった。大きな地球を守るためにはほんの小さな藩国一つの犠牲は仕方がないという結論。

けれどいくらそうとは言え、郷土を踏みにじられる民からしたらそれはどれだけ不合理な事だろうか。


「…何とかならないの?」

「もちろん奴等の仕業には俺らも注を差すに及ぶべきだがよォ…」

「どっか行ってくれないかな」

返してよ、父様の国。


「とにかくお前は江戸にいなさい。敵の目をくらますのにここほど格好な場所は無い」

「でも」

「大丈夫だ」


色眼鏡の向こうに見える松平の笑顔に頼もしさがあった。父の古い友であるこの男への絶対な信頼がごんみ(名)にさして不安な発言を加えるに至らせなかった。



「おっちゃん、栗子ちゃん元気?」

「おうそうだ、今度会ったら何年ぶりになるんだ?」

「もうかれこれ10年くらい?」

「そうか、栗子も京を出てだいぶ経つからなァ。オイ、今すぐ俺の家に向かえ」

「しかし松平様、今日はこれから…」

「構わねぇよォ。愛娘たちの再会の祝杯だ」

「わははーいっ♪」





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