色は匂へど散りぬるを
2
「くしし」
毎日世話役の手を焼かして逃げ回るあたしの実力を見てなさいよー?
一番最後まで逃げ残って最後の最後に仲間を牢から解放させてやるんだから!
「くししし」
鐘突堂の屋根裏に張り付きながら、ごんみ(名)は息を潜めるどころか笑いも堪えきれなかった。笑い方からして盗人になった気分でいた。
…そうねぇ、敵が来たらじゅうぶんに引き付けておいて、もうギリギリだぁーって頃合いになったら屋根の縁(へり)使ってぽーんって外へ飛べば逃げられる、そしたらあの木に登って枝伝いに本堂の屋根に飛び移ればまたいくらか稼げるな…
「…くしし」
これからの逃げ延びる計画を練っていると、額に白いたすきを巻いている岡っ引き役がパラパラと鐘突堂の辺りを嗅ぎ付けてきた。
「土井捕まえたぜーっ」
「だーれーかー」
「……」
だがしかし、どの者も堂の屋根裏までは覗かずに去っていってしまい、ごんみ(名)は気付かれずに何度も取り残されていた。
「…」
あまりの手応えの無さに、ごんみ(名)は緊張させていた腕の力を抜いた。
…なによ。うぁー、見つかった!よし、逃げるぞーっ!てなって挟み撃ちにあってもスルリと敵の間をすり抜けていくのがかくれおにごっこの醍醐味っつーもんなのに。
これじゃただのかくれんぼじゃん…
――ドタンッッ!
「ん?」
ちょっと気を緩めたのがいけなかった。屋根裏の梁の上にしゃがんで、さらに両腕で脇の梁を掴んでかろうじて保っていた体勢をわずかに崩したとき、ごんみ(名)の身体が真っ逆さまに落下した。
「あだだだ…」
「…」
「…あ」
尻を擦りながら起き上がった時にふと顔を上げると、堂のすぐ脇には白いたすきの岡っ引きがいた。
ただし、
――えーと…確かこいつたかすぎって言ったっけ。
「…ふんっ、捕まえられるもんなら捕まえてみろーっ」
ごんみ(名)はそう言うや否やぴゅーっと水鉄砲のごとく逃げ出した。
あいつになんか捕まってたまるかっつーのよっ!
そしてさっき練っていた計画通りに大木に登らんと手を掛けた時、
「……は」
ふと振り返っても高杉はいなかった。
「…」
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