色は匂へど散りぬるを
1
「へぇ〜!じゃあ次期副長は沖田さんなんですねぇ!」
「そのためにはどんな苦労にも耐えるぜ俺は。たとえ土方のヤローがこさえる犬の餌を食わされてもな」
「うわ…大変なんだ、土方さんの部下は」
「部下って言い方はやめろィ。胸くそわりィーや」
「あ、ごめんなさい」
沖田の横を並んで歩く娘は罰が悪そうに、ペロッと舌を出した。
「それから、俺もごんみ(名)も歳は変わらねーんだろ?そんな改まった言い方しなくていいでさァ」
「そうなの?」
「総悟って呼んでくれていいんだぜィ」
爽やかににこっと笑った、どこか得意そうな表情で沖田は娘を見下ろした。
そーご、とごんみ(名)も笑顔で繰り返した。
夏日輝く青空のもと、沖田は屯所を訪れたごんみ(名)を街へ連れだした。これもれっきとした任務の一環でさァ、と言って近藤の許可をもらい。
ごんみ(名)は大都会の賑やかさに半ば圧倒されながら、沖田の導くままに歩を進めていた。
活気溢れる商店街や娯楽街の人混み、客を呼び込む店員や世間話を交わす人々の明朗さ。ごんみ(名)が呆けた様子で周囲を見渡すのを見て沖田はしばし自慢気に鼻を鳴らすこともあった。
「――ねぇ、総悟?」
けれど少しトーンの下がったごんみ(名)の声に沖田は振り向いた。
「人の数と同じくらいの天人がいるのね、驚いた」
彼女にとってそれはこの大都会の第一印象だった。先進都市江戸では天人が人間と同じ地を踏み同じ空気を吸っているという、故国ではあり得なかった光景だ。
「何でィしかめた顔して」
「ん、いや、別に…。ただあたしの故郷とは違うなぁと思って」
ごんみ(名)は沖田の何当たり前の事言ってんだ、というような反応に一瞬詰まった。
「理由はアレでさァ」
沖田は斜め後方を振り返って高く聳えるそれを指差した。
「…あぁ、船に乗ってくるとき見えたわそういえば。アレって何なの?」
「ターミナルでィ。宇宙と地球を繋ぐ、江戸のシンボルだ。宇宙船に乗った天人がアレを通過してこの街に降りてくるんでさァ」
「そんなのがあったんだ、」
……じゃあ今は私たちの故国を我が物顔にするアイツらもそうやって…?
「行ってみるかィ?ターミナルに」
「えっ?あ、うん」
沖田はごんみ(名)の手を引いて元来た通りに方向を変えた。
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