もしもペリーじゃなかったら
3
――朝、
いつもどこからこういう衣装を引っ張りだしてくんだか
「どぉよごんこ(名)、なかなかキマってね?」
「うん、悔しいけど」
「悔しいけど、なに?」
折れたスーツの襟を正しながら思った。…カッコいい。
「人の弁護なんて今までにしたことあったの?」
「いいや?初めて」
「…勝てる自信は?」
「勝てるかねぇ?」
「え」
銀さんはやや上の方を見上げながら言った。
「俺の役目はただ本当の事を並べて証明して、本当だって貫き通してくるだけよ」
「だけって」
聞き返すと「それでも駄目だったらしょうがないんじゃね?」と返ってきた。そんなふうには思ってないくせに。
「是が非でも長谷川さん連れ帰ってくるつもりでしょ」
被告人の襟掴んで役人をなぎ倒してでも奉行所を飛び出してくるくらいの勢いで。銀さんは絶対見捨てたりしない。
フフン、とあたしを見下ろしてくるその赤いだて眼鏡の向こうの目がいやらしく弧を描いている。どこから湧いてくるんだこの自信は。万事屋ってほんとにマルチな職業なのにやってみせちゃうこの器用さ。
「大丈夫、上手く行くよ」
「おうよ」
キュッとネクタイを絞め直してあげた。
「…ていうかさっきから思ってたんだけど、」
「ん?」
「俺たち今夫婦みたいじゃね?」
「Σ!」
「おっ、真っ赤っ赤」
おんなじ事思ってちょっと乙女みたいにドキドキしてたのに!
「何で言うかなもう!」
「恥ずかしがんなよ〜」
一つ屋根の下で息づく仲じゃんか〜とヘラヘラ覗き込んでくるのを追い払おうとしたが。
息づくって他に言い方無いんか!なんかやだそれ!///
「ふっ、夫婦の前に段階があるでしょがっ」
「ほう?」
銀さんが屈めていた背筋を元に戻して「意外だな」というような顔で見下ろしてきてはっとした。熱せられたヤカンがついにピーっと音を発するまでに至った。必死にごまかそうと取り繕ったつもりで言ったものが
「かか買い物にでも行ってこようかな今日。何食べたい?」
「そうだなァ〜、暑いからそうめんとか」
「天ぷらでも揚げとこうか」
「火ィ気を付けろよ」
「うん」
「あ、それか先に風呂にしようかな」
「どっちにする?」
「どっちでもない。お前にする」
部屋の襖が開いた。
「…何してんのあんたら」
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