もしもペリーじゃなかったら
5
「ごんこ(名)近そうネ」
「うん」
定春の足が右往左往し始めて地面に鼻を擦り付けている。何の匂いを頼りに嗅ぎ付けようとしてるのかは分からないけど、とにかく今は定春の五感に頼るしかない。
そしてついに鼻先を上げた。
「――神楽ちゃん!」
「ピンクのリボン!」
いや、やっぱりリボンが浮いてる、写真よりも実物はなおさら。飼い主のセンスを疑うよ。
ケイシーは道端の花壇に寄り添っている。ここからじゃ動いていないように見えるんだけど、…生き物なんだよね?アレ。
「私、銀ちゃんちに知らせてくるネ!ごんこ(名)ちょっと見張ってて!」
「了解っ」
「定春行くヨ!!」
定春から飛び降りるとあたしはまっすぐにケイシーの方に走った。ワンッ、と一吠えした定春は神楽ちゃんを乗せてあたしとは正反対の方向に走った。
「…は、いいけども…」
近くに寄っていくうちに気持ちの方は後退していく。
「さわる…の?コレ」
もそもそと身体は波打っていて、こんにゃくのような色をしてて、触ったらドロッととろけるような。
「……υ」
どうしよう、見るまでは何ともないけど手が出ません。しゃがみこんで様子を伺った、というか自分の中に触る勇気が生まれてくるのを待った。
「…きもちわるいよぉぉぉ」
でも捕まえとかないと逃げるかもしれない。今が睡眠時間の9割のうちに入ってるとしたら、寝ているうちに捕まえないと…
「う〜」
「ぅぬぁ〜」
うねうねと揺れ動く表面に触れんとする指先が別の力によって違う方向に引っ張られる。
身体中が粟立つ感覚に襲われた。
「神楽ちゃんが戻ってくるまで、っ」
一回触ればなんて事な――
うぞぞぞぞぞッ
「ひっ!」
きもちわるいのが突然動いた。と、ともにあたしの手が反射的に身体の方にバネの如く戻ってきて尻餅。
「――ちょっコラ、ケイシー!!」
心臓を叩かれたような衝撃を食らって、次にはっとしたときにはケイシーはおぞましい動きであたしから遠退いていった。さっきまでの様子からは想像つかないようなスピードで地を這うように。
「神楽ちゃんに電話っ――」
そう感じて咄嗟に懐に入れた手は何も掴まなかった。
「…そうだ、携帯」
長年の習慣ていざ無くしたときはこんなに不安にさせるものなのか…
「――くっそォォッ」
着物はほんとに、ひどく走りにくい!
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