もしもペリーじゃなかったら
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「いらっしゃいませー」
「お席へご案内いたします」
「今日の日替わりランチは春の旬野菜と筍の…」
「お待たせいたしました、ご注文をお伺いいたします」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております…」
…すごい。
忘れてたけどさすがは日曜のお昼だ。店内を駆け回って息つく暇もない。
「本当、早く来てくれてよかったわ!ここまで混むとはねー。ありがとななしの(氏)さん!」
「いえ〜///暇だったんで 。来て良かったです」
山吹亭は客数の波も作らず大繁盛を保ったまま時が過ぎていった。
バイトが気分転換になることなんて初めてかもしれなかった。あまりの忙しさに余分な思考は綺麗に忘れていた。
「よォ〜、ねぇちゃん、米酒おかわり〜」
今日はまた幕府のお偉いさん方が食事に来ていた。
ナマで見る松平片栗虎。人相悪くってやくざのおっちゃんにしか見えませんよとっつぁん…
その個室では、奉行所関係であろう人たちと深刻のようなとっつぁんの一方的な絡みのような会話が為されていた。松平さんは白昼からお酒が入って先輩の従業員がしばらく個室に捕まっていたりで、後で聞いた話、騒がれそうになるのを宥めるのが大変だったそう。
すごいよな、あれで幕府の上官が務まっちゃうんだもんな。数々の破天荒ぶりが脳裏に漫画のコマで蘇ってきた。
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「ごちそうさまー」
「ありがとうございましたー」
――ふゥ…
表の景色がすっかり暗くなりお客さんの数も半減した頃合いになると、ようやく立ち止まって店内をぐるっと見渡すぐらいの余裕ができてきた。昼とは一変、この店の日曜日の夜は案外ゆったりしている。
「――ねぇ?ちょっと、あそこの窓際の六番席の人、」
食器を厨房に下げに行く途中で先輩がこっそり会話しているのを小耳に挟んだ。
「午後くらいからずっと一人でいるんだけど、丼一品注文して以来何も無いのよね。ずーっとぼーっとしててさ。閉店までいるつもりかしら?」
「そうそう、あたしも気になってたのよ。でもさ、ちょっとなんかカッコ良くない?足組んで肘ついてるあの雰囲気とかっ」
きゃっ、と小さくはしゃいだつもりらしいが先輩の声は厨房に入っていたあたしにも聞こえてきた。楽しそうだな、と何となくあたしもそちらへ向かった。
「…あなたたちあの人知らないの?坂田さんよぉ、万事屋やってる。たまに来てくれてはいっつも同じ丼注文してくのよ」
「…え?」
けれど会話に入っていく手前でそう聞いて、思わず足を止めた。
「…万事屋って、スナックお登勢さんの上の?」
「そうそう、何でも屋さん」
「オーナーは若いって聞いてたけど…あらま、あの人がそうなんだぁ」
先輩たちの話を横耳にしながらあたしもそちらへ視線を向けた。
…あららホントだ、全っ然気が付かなかった。来てくれてたんだ!?
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