もしもペリーじゃなかったら
3
…ガタガタッ…
「…オイυ」
だがどうやら隻眼ヤローは引き下がる気は無いらしい。その右目は俺に細く鋭く歯向かっている、口端は釣り上げたまま。
「…てめぇいー加減にしろよ。いくら真夜中とはいえこんな町中をウロついてやがって…自分の立場分かってんのか指名手配犯サンよォ」
返ってきたのは問題ねーな、とくつくつという笑いだった。
余裕かましてやがって…こっちが迷惑なんだよυ
身勝手さに呆れてため息しか出なかった。
「、なんだよ」
そのため息が奴が鼻で短く息をついたのと重なった。視線を向けて俺の目に映った男の様子に思わず眉根を寄せた。
「……何があるか分からねぇ…」
「…あ゙?」
「こいつァどーも壊しちゃならねぇ気がするんだ」
「…いきなり何言ってんだ」
女を上から見下ろしながら若干苦笑混じりの言葉だったように聞こえた。妙だった、
幼い頃から俺が知っている、紅桜ん時に見せた大胆不敵な顔はどこへやら。右目の表情こそ窺えないが、頭を項垂れたときにこぼれ落ちてきた漆黒の前髪がたらりとどこか弱々しい。
そして高杉はその姿勢のまま、まるで女に喋っているかのように俺に聞いてきた。
「…銀時、まさかてめーは民間人が危険に巻き込まれるのをみすみす見殺しにできる程腐っちゃいめーよなァ?」
「なんだよ。まさか腐っちゃってること自覚してんのてめーは、」
「ククッ…違ぇねぇ」
、否定しねぇ…?
「…お前らしくねぇよ高杉、どうした、改心でもしたか?」
今更人情かい。
お宅の人斬りサンはあれだけ野放しにしておいてよォ、
高杉はまたくくく、と笑ってようやく顔を上げた。
「不器用なとこはあるが無神経ではねぇよな、銀時お前は」
「あ゙?」
「もう大事な荷物は背負いたくねぇとか言ってたが、結局傍にあるもんは捨てきれなんだ」
そう言うと顔を上げて俺の背後の方へ視線を投げて口角を上げた。
その視線を受けた神楽から緊張の生唾を飲み込むのが伝わってきた。
「うるせー…だからなんだっつーんだよ。とにかくお前のそのデンジャラスな匂いが付いたペットは万事屋銀ちゃんにはお持込禁止!うちには思春期のガキが二人もいるんだからやめてくんない、うちの子に妙なもん与えないでくんない」
「ペットじゃねぇ…見ろ。悪かねぇだろ?」
腕の中の女を顎で示し再度俺の視線を誘う。
…暢気だなァこの女も、こりゃでけぇ地震来ても気がつかないタイプだな…
「見ての通り、この女普通じゃねぇ、ちょいといろいろあったようでな。…まァ直に話は聞くと思うが」
「なんだそりゃァよォ、めんどくせーもん持ち込みやがって」
「とにかく、まだその“時”じゃねぇんだ」
……は?
「…っておい」
「いいな、くれぐれも“おとす”んじゃねぇぞ」
…え、オイ、ちょっと待て。
いつの間にか高杉は階段をカンカンと足音鳴らして降りていた。その腕にあった女は俺が抱えてて。
「オイィィィ!?てめー!ちゃんと戻ってくるんだろーな!?」
上から怒鳴り付けると、高杉は一度足を止めて顔だけで振り向きこう言った。
「ごんこ(名)だ」
後は無言で、その表情もあまり良く見えず。
唯一確認できたのは左目を覆った包帯の下につり上がる口角。
…何なんだよ、ワケ分かんねーυ
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