もしもペリーじゃなかったら
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一言で言えば、退屈。
新しい生活が始まってもうすぐ一年経つけれど、未だに目的や生き甲斐が見つけられなくって同じように始まって同じように終わっていくただの繰り返しの日々…
いっそこの現実を捨てて、どこか別の世界に行ってしまいたいと何度夢見ていることか。
「現実逃避なんて『甘しゃん』が考える事だ」って、そんなの分かってる。もっと自分に向き合って、社会に向き合っていかなきゃならないのだって分かってるはず…
…はずなんだけどさ…
「―――ちゃん、――ごんこ(名)ちゃんっ」
――、!
「どうしたのよ?早くいらっしゃい」
「あっごめんごめんっ」
あたしを呼ぶ祖母の声がようやく耳に入って我に返った。すぐ隣へ駆け寄る。
大学生になってから下宿させてもらっている祖母に、誕生日プレゼントとして箱根へ一泊旅行に招待している。今日はその二日目だった。
昨日の春の嵐から打って変わって、箱根の山と山との間に覗く富士山の雪化粧がくっきり見える快晴だった。
旧東海道の、高く聳える杉並木をふたり並んで歩く。
あたしはぼんやりと、まるで江戸時代にタイムスリップしたような気分に浸っていた。
ここはほぼ江戸時代に使われた道のまま残された並木道。歴史を感じさせる、とても趣のある空間だ。騒音なんてどこへやら、木の枝が風でしなるのとあたしたちが土を踏む音の他は静かで、空気は冷たく張り詰めている。
――本当に錯覚させる。この近くには“金時山”もあるし…。
あたしの大好きな“あの世界”に、行ってみたい…
――ビュウオォゥゥ
「うぁっ!!」
柔らかいカマイタチがあたしの身体を通り抜けた。ぬるい感触に無意識に息が止まった。
ザザアァァァァ………
「…もう髪、ボッサボサ」
暦の上では春でも吹き付ける風は冷たくて、さっきから昨日の嵐の名残だと言わんばかりの強風が何度もあたしたちを煽った。
「――ぅっくしょんッッ!!…ぬぅ〜〜〜やっぱ短パンは失敗だったよ、おばあ………アレ?おばあちゃん?」
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