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01.覚醒の瞬間



「つうわけで、部屋ん中でじっとしとってもしゃあない。サクラちゃんの記憶の羽根を早よ探すためにも、この辺探索してみいや」

「はーい」
「はい」
「わかりました」
「……」

上から順にファイ、小狼、ユナと返事をしていく。黒鋼はムスッとした顔をし、無言であった。

空汰と嵐が営む下宿の入り口にみんなは集合していた。
これからサクラの羽根を探しに行くのである。

服は空汰と嵐からこの世界のものを借りた。
やはり、四人が最初に着ていた服装では出歩くには目立ってしまうからだ。


「歩いてみたら、昨日言うとった巧断が何かも分かるはずやで」

「はい」

そう答えつつも、心配そうに下宿を見つめる小狼。
その先は、サクラが眠る部屋である。


「サクラさんは、私が側にいますから」

「…はい」


嵐がついていてくれると言ってくれたが、それでも心配なようである。




「おい、その白いのも連れていくのかよ」

「白いのじゃないーーモコナーー!」

勢いよく黒鋼に飛びつく。
きっと、全身でのツッコミなのだろう。


「モコナを連れて行かなきゃ羽根が近くにあっても分かりませんよ?」

黒鋼の肩に乗っているモコナの頭を撫でてやる。
気持ちいいのか目を瞑っている。


「…ああ、そうだったな」

思わず、隣に立つ彼女に気を取られ返事が遅れてしまった。
ユナがとても優しい笑顔をしていたから。
それは己の主である者を思い出させるような暖かいものであった。


「それより、モコナを連れて歩いても大丈夫なのーー?」

「この世界ではありがちな光景や。だーれもとがめたりはせん」

「え?」

言葉の意味が理解することが出来なかった。
今までのユナや小狼、黒鋼やファイの反応を見ているとモコナはどの世界に住む者にとっても、不思議な存在であるに違いない。
それなのに、この世界で連れて歩いても大丈夫なのは何故なのか、それが分からなかった。



「うし!んじゃ、これ!」

空汰が取り出したのはカエルの形をした入れ物。


「お昼御飯代入ってるさかい。四人で仲良う食べや」

お金が入っているということは財布なのであろう。
それを小狼の手にぽすっと渡す。


「ほいで、姉ちゃんはこれ!」

ユナには何回か折り畳まれ小さくなった紙を渡す。
開いてみると、図が描いてある。
どうやら、この国の地図のようだ。


「なんで、そのガキと女に渡すんだよ」

「他と比べてしっかりしてそうやから!」

そう言う空汰の後ろでは嵐も頷いている。
確かに年上な彼らよりも、小さな少年は大人びて見えて、そして女は年相応に落ち着いており、誰に任せるかと聞かれれば後の二人だろう。


「どういう意味だよ!!」
「アハハハーー」

怒る黒鋼に対し、ファイは笑っていた。



◇◇◇◇◇



「賑やかだねー」

「ひと、いっぱーい!」

「なんだ、あの妙ちくりんなモンは!?」

「でっかい建物と小さい建物が混在してるんだーー」

「見たことがないものばかりです」

やって来たのは、周りに高さがさまざまな建物がたくさん建っている場所。
四人と一匹は驚きながら、物珍しそうに辺りを見渡す。


「小狼君はこういうの見たことあるー?」

「ないです」

「黒たんはーー?」

「ねぇよ!んでもって妙な呼び方するな!!」

こんな黒鋼とファイの会話にもだいぶ慣れてきた。




――くすくす

気付けば、周りから笑い声と視線が注がれていた。
それらはユナとその肩に乗っているモコナへと向けられている。


「笑わるてっぞ、おめぇら」

「モコナもユナも、もてもてっ!」

モコナは喜んでいるが、ユナとしては見られていると意識してしまうとなんだか恥ずかしい。

おかしなところでもあっただろうか?

服は借りたものであるから平気だろうし、髪も切りそろえて貰ったので問題はないはずなのだが。


「おめぇはモテてねぇよっ!」

「モコナはともかく、ユナちゃんを見ている大半が男の人だねーー」

ユナの横では黒鋼が突っ込み、ファイが原因を話すが必死で考えているユナの耳には入ることはなかった。

ファイが周りを一瞥すると、こちらを見ていた者たちは、気まずそうに足早に立ち去っていった。



◇◇◇◇◇



「らっしゃい!お、リンゴ買っていかねぇかい!?」

目の前のお店には手に赤く丸い物体を持ったオジサンがいた。
店先には赤や黄色と色とりどりの野菜や果物が並べられている。
どうやら、ここは八百屋のようだ。


「え?それ、リンゴですか?」

「これがリンゴ以外の何だっちゅうんだ!」

驚いたように問う小狼。
リンゴだと言われた物をまじまじと見つめる。


「小狼君の世界じゃ、こういうのじゃなかったーー?」

「形はこうなんですけど、色がもっと薄い黄色で…」

「ん?そりゃ、梨だろ」

「いえ、ナシはもっと赤くてヘタが上にあって…」

「それ、ラキの実でしょーー?」

「イチゴのことじゃないんですか?」

それぞれ意見を出すが皆、想像するものが異なり、だんだんリンゴから離れていってしまう。


「で!いるのか!いらんのか!」

店先でゴタゴタと意見を交わす彼らに痺れを切らした店のオジサンが叫んだ。


「いるーー!!」



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