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01.真夜中の訪問者



――コンコン


嵐と別れた後、ユナの部屋のドアを叩く者があった。


「はい」

こんな夜遅くに部屋を訪ねて来るなんて、いったい誰だろうか。
そう思いながら扉を開けば、そこにはファイが立っていた。
手には何故かハサミを持っている。


「こんばんはー」

「どうしたんですか?」

「んー。気になっちゃって」

指差す先はユナの髪。


「髪ですか?」

自分の髪がどうかしたのだろうか。
手で髪を触ってみる。


「長さバラバラだよー」

見れば、確かに乱雑である。

侑子に対価を支払う時に、何も考えずに切ってしまったからであろう。
しかし、本人は全く気にしていなかった。


「本当ですね」

「だから、切りそろえてあげようと思ってー」

持っていたハサミをチョキチョキと動かす。


「え?でも、夜遅いし自分でやりますから大丈夫ですよ」

もう既に、時計の針はてっぺんを越えている。
彼にやって貰っては休む時間を減らしてしまう。


「大丈夫だよー。じゃあ、お邪魔するねー」

ユナの気遣いも空しく、ファイは部屋の中へ入って来てしまった。


「オレたちの部屋よりは小さいけど、一人で寝泊まりするには十分な広さだねー」

中を見渡しながら、進んで行く。
部屋の中央まで来るとパンパンと畳を叩いた。


「ここに座ってー」

「はい」

言われるがまま腰を下ろす。
何だか、彼には調子を狂わされる。



一方、ファイはちゃんと準備して来たのだろう。
畳の上に紙を敷き、切った髪が落ちても大丈夫なようにしていた。


「じゃあ、切るねー」

揃っていない髪にハサミが入れられる。
静かな部屋だとシャッシャッと切れる音がやけに大きく聞こえる。


「それにしても、魔女さんも酷いよねー。女の子にとって髪は大切なのに」

「仕方ないですよ、対価なんですから」

「それでもー‥」

動かしていた手を止め、短くなってしまったユナの髪を優しく掬う。
藍色の髪は柔らかく、滑らかで手からするりと落ちてしまう。


思い返せば、彼は髪を対価に渡せと言われた時も同じことを言っていた。


「…ファイさんは優しいんですね」

「‥…そんなことないよーー」

ファイに背を向けていたユナは気づくことはなかったが、彼は寂しげに笑っていた。



◇◇◇◇◇


「完成ー!はい、コレ」

手渡されたのは手鏡。
ただ長さを揃える為であったので、それほど時間はかからなかった。

ユナが覗けば、そこには綺麗に切り揃えられた髪型の自分の姿が写った。
どうやらファイは器用なようだ。


「ありがとうございます」

「いいえー」

「今度、何かお礼させて下さい」

「気にしなくていいよー」

やんわりとユナの申し出を断るが、彼女は納得しない。


「でも、こんな夜遅くにわざわざしてもらって…」

「オレが勝手にしたことだからー」

「それでもー‥」

なかなか引かないユナ。
ユナも小狼同様、真面目な性格なようでファイも少し困ってしまう。


「んー‥」

頭に人差し指を当てて考え込む。


「じゃあ、今度何かお礼して貰おうかなーー」

「はい」

これでユナも満足したようだ。


「そろそろ戻らないとー」

「そうですよね!足止めしちゃってすみません。片付けは自分でするんで、ファイさんは部屋に戻って下さい」

慌てて、ファイをドアの方へと誘導する。


「片付けさせちゃってごめんねー」

「いいえ。それより明日というか、今日からサクラちゃんの羽根を探すの頑張りましょうね」

「そうだねー。大変だろうけど、頑張らないとね」

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみー」


ユナは微笑み会釈し、ファイは手を振り別れた。




また静けさを取り戻した部屋。
畳に敷いた紙の上に落ちている己の髪を見つめるユナ。
それに手をかざす。
すると、眩い光が部屋全体を包み込んだ。
しかし、その光は数秒で消えてしまった。

だが、元に戻った部屋には、ある変化が。
先ほどまであった髪はなくなり、代わりに赤い石が一つ転がっていた。
それはまるで宝石のように輝いている。


「これが使う日が来るのかなー‥」

石を手に取り、ポケットにそっとしまった。



(――真夜中の訪問者)



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