02.
「さっきの戦闘の中、モコナはどこにいたのーー?」
「ユナの肩の上にいたの。そしたら、落とされた」
ユナの顔がだんだん蒼くなっていく。
きっと、少年を助ける為に走り出したときに落としてしまったに違いない。
「ご、ごめんね!!」
モコナの手を取り、必死に謝る。
「そう!モコナさっき、こんな風になってたのにーー!」
めきょっと目を大きく開く。
「さくらの羽根が近くにあるのか!?」
小狼が慌ててモコナに駆け寄った。
「さっきはあった。でも、今はもう感じられない」
「誰が持ってたか分かったか!?」
「分からなかった」
「…そう……か」
がっくりと肩を落とす彼にユナは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「…ごめんなさい。私がモコナを落としてしまったせいで」
「気にしないで下さい。近くの誰かが持ってるって分かっただけでも良かったですから」
ユナは小狼と出会ったばかりだったが、彼が優しい心の持ち主だということが分かった。
彼と話していると不思議と心が温かくなるのだ。
「あの、あの!さっきは本当にありがとうございました!」
緊張した面持ちでそう言うのは先程の少年だ。
「僕、斉藤正義といいます。お、お礼を何かさせて下さい!」
『お礼』その言葉にユナは昨夜の出来事を思い出す。
(そういえば、私もファイさんにお礼をしなくちゃ。でもー‥)
何をすれば良いのか分からなかった。
物をあげるにしてもユナはこの国のお金など持っているはずもなく、何かをしてあげるにしても自分に出来ることなどなかった。
それにそもそも彼がお礼に何を望んでいるのかも分からない。
(どうしよう…)
いろいろと考えていれば、モコナの大きな声が耳に入って来た。
「お昼ゴハン食べたい!おいしいとこで!!」
言われてみれば、四人はまだお昼を食べていなかった。
意識してしまうと、急にお腹が減るものでグゥと空腹を知らせる音が鳴る。
◇◇◇◇◇
少年・正義によって連れて来られたのはお好み焼き屋だった。
熱々の鉄板の上にはジューと音を立てて焼けるお好み焼きがある。
「これが"おこのみやき"というものですか?」
珍しそうに見つめるユナ。
「はい。お好み焼きを知らないんですか?」
阪神共和国の主食を知らないことに驚いている。
「ええ。…なんと言うか、私達外から来たので」
正義にはその意味がよく分からないようだ。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのーー?」
「あれはナワバリ争いなんです」
話によると彼らはチームを組んで自分達の巧断の強さを競っているそうだ。
そして、自警団のような良いチームと暴れ回ったりする悪いチームがある。
ちなみに、先程出会ったゴーグルをかけた男達のチームは良いチームらしい。
「特に、あのリーダーね笙悟さんの巧断は特級で強くて大きくてみんな憧れてて!」
興奮気味に話す正義。
彼の名前が出た途端、ユナの肩が小さく揺れる。
それに、気づいたのはファイのみ。
小狼は真剣に正義の話を聞き、黒鋼とモコナは鉄板の上のお好み焼きに夢中になっていた。
「でも、小狼君にも憧れます!特級の巧断が憑いてるなんてすごいことだから」
強い巧断、特に特級の巧断は本当に心が強いひとにしか憑かない。
それは巧断は自分の心で操るものだからである。
強い巧断を自由自在に操れるのは強い証拠であるのだ。
ユナはそっと自分の手のひらを見つめる。
(強い心を持つ者に憑く巧断かー‥)
「だから、憧れるんです…。僕のは…一番下の四級だから。でもっ!巧断を使わずに僕を助けてくれたユナさんにも憧れます。力に頼らず、身を呈す。それも心が強い証拠ですから」
自分の名が挙がり、一瞬驚くものの正義の嬉しい言葉に笑みがこぼれる。
正義はその優しい微笑みに、つい見とれてしまった。
「でも、一体いつ小狼君に巧断が憑いたんだろうねぇ」
「そういえば、昨日の夜夢を見たんです」
小狼達が真剣に話している横ではずっと気になっていたのだろう。
黒鋼がそろーっとお好み焼きをひっくり返そうとしていた、その瞬間。
「待ったーー!」
エプロンを着けた二人の男が現れる。
「王様!?それに神官様!?」
それと共に小狼の驚いた声が響いた。
(――心の強さ)
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