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01.心の強さ



「炎を操る巧断か。俺は水でそっちは炎。おもしれぇ」

ゴーグルをかけた男は攻撃を仕掛けて来た。
それに対し、ユナはまた身を構えるが、今度はしっかりと前を見つめる。

その先には小狼が両手を広げ、自分達を護る背中があった。
自分よりも幼いはずなのに、何だか彼の背は大きく感じられた。


襲い来る水が四人に当たるかと思われた瞬間、またしても狼が攻撃を弾いた。
どうやら、あれは小狼の意志によって動いているようだ。


「俺は浅黄笙悟だ。おまえは?」

「…小狼」

攻撃を弾かれたにも関わらず、笙悟は何故か楽しそうだ。


「後ろの女は?」

「‥‥ユナ」

「おまえら気にいった」

笙悟は小狼の巧断が強いから気に入ったのだろう。
だが、ユナは自分が気にいられる理由が分からない。
そんな風に考えていれば、顔に出てしまったのか、笙悟がこちらを向いた。


「ユナ、おまえは巧断を使わないのに恐れずに少年を庇った。その心意気が気にいったんだ。それとーー」
「笙悟!警察だ!!」

仲間の叫びにより、言葉が遮られる。
そして、男達は次々と逃げ去って行く。


「今からいいトコだったのによ」

残念そうな笙悟。
仕方なく巧断を使い逃げる準備をする。

だが、笙悟はみんなが逃げて行く方向とは逆にユナ達のいる方へと巧断に乗り飛んできた。
今まで攻撃を仕掛けて来た者が近づいたことにユナと小狼は警戒を強める。
しかし、そんなことなど気にしていないのか、笙悟の巧断はスピードを落とさずにスッとユナの横を過ぎていく。


"綺麗だからだ"

彼はすれ違う際にユナの耳元でそう囁いた。
それは、さっき遮られた言葉の続き。

ユナはハッとし、彼の姿を目で追うが、既に遠くまで行ってしまっていた。


「次に会った時が楽しみだぜ!」

そう言葉を残し去って行く笙悟をユナはただ呆然と見つめていた。




―――ボッ

急に四人を護ってくれていた狼の炎が激しく燃え上がり、

―――ギュオオオ

吸い込まれるように小狼の胸の中に消えて行った。


「…おれの中に……入った?」

胸の辺りを触ってみるが、痛みなどは感じなかった。
不思議なものだ。


「すごかったねーー。さっきのは小狼君が出したのかなーー?」

「今のも巧断か?」

離れてことの成り行きを見守っていたファイと黒鋼がやって来た。


「良く分からないんです。でも、急に熱くなって…。あっ、怪我はないですか!?」

慌ててユナと少年達の方を振り向いた。
少年達はコクコクと頷き、無事を示す。
しかし、ユナはボーっと立ったまま何の反応も示さない。


「…ユナさん?」

先程、笙悟が逃げる際にユナに近づいたを小狼は見た。
もしかしたら、気づかぬ内に何か攻撃をされたのかもしれない。
嫌な考えが頭をよぎる。


「ユナちゃんー?」

「…えっ?」

ファイの呼びかけによって、やっと意識が戻った。


「怪我ないー?」

「…はい!」

小狼に代わり、様子を窺う。
ぱっと見ただけでは外傷は見当たらない。
そのことに少しだけホッとするが、やはり何か彼女は変だった。


「とりあえず、怪我がないようで良かったです」

小狼もみんなが無事だったことに安心する。
その瞬間、少年の隣にいたもう一人の少年がフッと消えた。


「…!あの子も巧断なんですか?」

ユナが思わず声を張り上げてしまう。
まさか、自分が庇った片方の少年が巧断だったなんて思ってもみなかった。

巧断というのは何でもありなようだ。


「そういえば、うちの巧断みたいなのはどこ行ったのかなぁ」

「モコナ!」

今まで忘れていた存在をやっと思い出す。
辺りを見渡せば、女の子に囲まれ、チヤホヤされているモコナがいた。




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あきゅろす。
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