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02.



モコナの一言により、買うことになったリンゴ。
それを人が行き交う橋の上でみんなで食べていた。


「美味しいですね、リンゴ」

丸かじりしながらリンゴを頬張るが、ユナの小さい口ではなかなか減らない。


「けど、ほんとに全然違う文化圏から来たんだねぇ、オレたち」

先程の会話により、明らかになった各々の世界の違い。
食べ物だけでなく、他の部分でも違いがあるということは最初に着ていた服を思い出すと見て取れる。


「そういえば、まだ聞いてなかったけど小狼君はどうやってあの次元の魔女のところへ来たのかなー」

「おれがいた国の神官様に送って頂いたんです」


小狼は思い出す。
遺跡で起こった出来事。
記憶を失ったサクラを必死で抱きかかえ走ったこと。
そして、サクラを救う為に玖楼国を旅立った、あの日を。


「すごいねー。その神官さん一人でも大変なのに、二人も異世界へ同時に送るなんて。ユナちゃんはどうやって来たのー?」

「私はー‥」

言葉を続けようとしたが、何かを考えるように止めた。
そして、言い直す。


「私は、ある人に送って貰ったんです」

「ある人ー?」

「はい。私のとても大切な人です…」

遥か遠くを見つめる瞳はその者を思い浮かべているのだろうか。
微笑んではいるがその表情には陰りがあり、どこか切ないものであった。
その人物が彼女とどのような関係なのかは分からないが、ユナを異世界に送ったということはそれなりの魔力を持っているに違いない。


「黒りんはーー?」

「うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理矢理」


振り返るはあの日の出来事。
殺生ばかりをしていた黒鋼を異世界に飛ばした知世姫。
そこで、本当の意味での強さを知ると言っていた。
そして、最後に「呪」という術をかけられた。

それがどのようなことかは黒鋼はまだ知ることはない。


「悪いことして叱られたんだー?」
「叱られんぼだー」

ファイに便乗し、からかうモコナ。
いつもいじられている黒鋼がだんだん可哀想になってくる。


「てめえこそ、どうなんだよ!」

「オレ?オレは自分であそこへ行ったんだよーー」

そう、ファイは自らあそこに赴いた。
あの世界からー…いや、ある人物から逃げる為に。


「だったら、あの魔女に頼るこたねぇじゃねぇか。自分でなんとか出来るだろ」

「無理だよー。オレの魔力総動員しても、一回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」

ユナは横目にファイの顔を窺う。
気付かれないように見たつもりだった。
しかし、それに気付いたのかファイがこちらに向けにっこりと笑って来た。


「…それじゃあ、小狼君を送った人も、黒鋼さんを送った人も、物凄い魔力の持ち主なんですね」

まさか気付かれるとは思っていなかった。
そのことに驚きながらも、平静を装う。
変に思われないように、微笑み返しながら。


「でも、持てるすべての力を使っても、おそらく異世界へ誰かを渡せるのは一度きり…。だから、神官さんは小狼君を魔女さんのところに送ったんだよ」

サクラの記憶の羽根を取り戻すには色んな世界を渡り歩くしかない。
それが今出来るのは次元の魔女だけであるから。



リンゴを見つめていると小狼の頭に懐かしい記憶がよぎる。
リンゴを手に持ち、優しい笑顔を見せるサクラの姿。
彼女の笑みはいつも暖かく、地を照らす太陽のよう。
人々はその光を浴び、元気を貰っていた。
もちろん、小狼も。

しかし、それは幸せだった頃の玖楼国での思い出。
今の彼女は瞳を閉じたままで、光を与えてくれることはない。


「……さくら」

彼女の笑顔が早く見たい。


呟きは周りにいた者には届くことはなかった。



――きゃあああ!

突然、聞こえた悲鳴と共に現れたのは数人の男達。


「今度こそ、お前らぶっ潰してこの界隈は俺達がもらう!」


「かぁっこいー」

ファイは楽しそうに現れた男達を眺めていた。まるで子供のよう。


「またナワバリ争いだー!」
「このヤロー!特級の巧断憑けてるからって、いい気になってんじゃねえぞ!」

周りで逃げ惑う人達からヤジが飛ぶ。
そこで"巧断"という単語が耳に入った。


(巧断!?熱い…!?)

急に小狼の胸が熱くなった。
ぎゅっと胸の辺りを抑えてみるが、和らぐことはなくさらに燃え上がる。
熱くなった原因を考えてみるが、思い当たる節はなかった。

そんな時、男達が一斉に闘いを始めた。
対抗するべく、人々は不思議な生き物を駆使している。
姿、形、大きさは全てバラバラで、繰り出される攻撃もまた違う。
皆、それを器用に操る。


「あれが巧断か」

「モコナが歩いてても驚かれないわけだーー」




男達のリーダーであろうか。
一人の男がその辺にいる不思議な生き物とは比べものにならないくらい、大きな生き物を出した。
それはまるでエイのようである。
生き物から繰り出される攻撃もまた大きく周りにあったものに波が容赦なく襲いかかる。


「うわあああ!」

一人の少年が逃げる途中で転んでしまった。
それをもう一人の少年が必死に起こし助けようとしている。


「…危ないっ!」

咄嗟に気づいたのはユナ。
急ぎ駆けつけ、少年達を庇うがこのままでは攻撃が直撃してしまう。
目を閉じ、次に来る衝撃に備え、体を強張せた。

しかし、いくら待っても来るはずの痛みがない。
恐る恐る、後ろを振り返ってみると、そこには―――


「小狼君…」

ユナと少年に覆い被さり庇う小狼がいた。
さらにその向こう側には炎を纏った狼が水から四人を護っている。


「おまえの巧断も特級らしいな」

リーダーらしき男が口先を上げ、こちらを見つめていた。



(――覚醒の瞬間)



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あきゅろす。
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