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隠した気持ち(W3/ロク→アン)



ふわふわの巻かれた青髪は何時もほのかに甘い香りがしている。
柔らかい頬は角砂糖のように、長い睫毛は大人の雰囲気を。

人知れず無茶をして、少し意地悪で、言葉巧みに人を丸め込む。

とても、とても
可愛い女性。





ぼお、と目線が定まらないような眼差しを宙に向け浮遊する彼に金の使用人は首を傾げる。
小さな体が持つには些か困難な品を金色、ガイが請け負い共に食料庫を目指していればふいに彼がこの調子になったのだ。

普段から忙しく動いているから疲労かな、とガイは彼が宙から落ちないよう気を配りつつ足を運ぶ。浮遊している動物のような彼は意識散漫としつつもきちんと進行方向に進んでいるのだから実に職務熱心に見えた。

しかしその危うさについガイは口を開き片手を彼の後頭部に乗せ弾ませる。


「大丈夫か?」
「はっ!あぁ、いえ大丈夫ですっ」
「ロックス、無茶はするなよ」
「そんな僕は平気です。それよりアンジュ様が…」
「アンジュが?」
「あ、その…ルージュ様とお出かけに行かれて、心配で…」


ぼそぼそと俯きながら呟くロックスの言葉は次第に掠れて消える。歯切れの悪さにガイは追求すべきではなかったかと彼の瞳が完全に床に落ちた後掛ける言葉を無くした。

荷物を台に乗せ目的を果たした時ロックスの耳が微かに揺れる。
ガイが思わず小首を傾げれば彼は下降気味だった体を上げて身を揺らし後瞳を輝かせ振り返った。


「皆様お帰りになったようです、お疲れでしょうから僕何か持って行きますね。ガイ様、本当に有難うございました」


普段温厚な彼の早い言葉にガイは頷き返し素早く去る小さな背中と逸るような尾羽の動きを唖然と見詰め、その姿が完全に居なくなってから漸く空色は安堵に和らいだ。





両手で盆を持ちふよふよと飛ぶ彼は一直線にホールに向かう。
途中、黒いふわふわの髪の少女と廊下で擦れ違い挨拶をすれば彼女は笑顔満開で返してくれた。その彼女が一室の扉を叩き入室するのを横目にロックスは別の扉を開く。

長く広い客を招くように、出立を見守るように、帰宅を待つように作られたホールは沢山の仲間が毎日掃除をしてそれなりに綺麗だ。
その場所に一つある台座で番をするロックスの待ち人は魔物退治後にも関わらずやはりそこに居た。
緩やかに巻かれ頭上で一つに纏め上げられた青髪。ロックスが勢いを増しかけた途端、彼女の前に立つ高身長の男性が目に止まり急停止する。


「もう酷いなぁ、リカルドさんは」
「付き合っているだけ優しいだろう。セレーナ、傷は残すなよ」
「はいはい、わかっています。本当に有難うございました」
「俺は何時でも付き合おう」


広い室内で澄んだ笑い声はよく響きロックスの浮かれた気分は落ちていく。
その事に気付いたロックスは唇を引き締め二人に近付き帰還を告げる。鋭い眼差しのリカルドがロックスへ視線を投げ、浅い返事を一つアンジュの頭を撫で階段へ向かいおりていった。

弾まされた頭をアンジュは複雑そうに眉を寄せ自ら片手を乗せ撫で息を逃がしロックスへ身を向ける。
柔らかな髪が左右に揺れ、ロックスは盆を高めに持ち上げた。


「お疲れではありませんか?疲労回復には甘い物ですよ」
「有難う、ただいまロックス」
「お帰りなさい、アンジュ様」



あぁニアタ様、僕は駄目な奴なんです。
今更やはり少しだけ、後悔しているのだから。

もし僕がヒトで在れたら、貴女の手を取り抱きしめれるのに、なんて。



(微笑む貴女は誰よりも可愛い)





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