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●再会(レイ→デュで二十代)



調度よかった、これ差し入れしてくれないか?




そんな一言がきっかけ。






高層マンション、無駄に馬鹿でかいその扉を開くのもセキュリティだなんだと面倒だった。
そのエレベーターを待ちながら僅かに生えた無精髭を摩る。二十を越えてから剃らずにいればいつの間にか顎に蓄えられるようになったそれ、ざりざりと鳴らし片腕に本、その先の手には風呂敷に包まれた差し入れ。レイヴンは僅かに垂れた瞳を狼狽に揺らがせ息をはき何故こうなったか思い返す。



レイヴンは大学のレポートをする為に資料が欲しくそれを持ってる人物の所に来たのだ。図書館に行くのも手ではあったが一々捜すよりは確実に直ぐに出してくれるだろう高校の同級生。
彼の家に行けば一人暮らしを始めたのだと住所を受け取る嵌めになり知らずに家を変えた文句も一緒に書かれた場所へ行けば出て来たのは目当ての白髪眼鏡ではなく金の先輩だった。

疑問付を盛大に出すレイヴンを他所に彼、ピオニーは絞り出された言葉から本来会う筈だったサフィールの本を渡しついでに、と風呂敷包みと共にレイヴンにお使いを頼んだのだ。



チンッ、と軽快な音が鳴り我に返ればエレベーターの扉が開かれ、そこには先客がいた。
きらきら輝く金髪はピオニーより明るくまるで月色のようでやはり同じく青い瞳は薄く晴れた春空のよう、な幼い子供。
ここに住んでいるのだろう、とレイヴンは思い彼の前に滑り込み階を押そうとしたが既に点灯していた。狭い…―それでもデパートのエレベーター並の広さだ―…中に人は二人。
妙な奇遇だ、と受け取る。

開く前の音は同じく子供は扉が僅かに開いた隙間を先に擦り抜ける。エレベーターの中では静かに直立していたものだからその素早さにレイヴンは呆気に取られ危うく降り損ねる所だった。
かつかつと廊下を歩く。中庭が眼下に映り無駄に広大なマンションに肩を竦めた。未だ家族と一軒家に住居を構えるレイヴンには同い年のサフィールの行動力よりも経済力に舌を巻く勢いだ、ピオニーと住んでいるならば折半なのだろうが。

そんな取り留めない事を考えていれば金髪の子供が低い背を懸命に伸ばし呼び鈴を押すのが視界に入る。
何度か押し待つも中の反応はないようだ、家人ではないのかとレイヴンは後ろを通り過ぎてはたと教えられた部屋番号がそこと気付き足を止める。
焦れったいと金の少年はポケットから鍵を取り出し開けた、中へ入る姿に慌てて開いた扉を掴めば空色のまあるい瞳が見上げてきた。
無垢な少年の不審者を見るような眼差しにレイヴンはパッと手を離し右往左往と両手をばたつかせ弁解をする。


「違う違う、俺はここに用事なの!先輩…ピオニーに頼まれて差し入れをね。少年知ってる?ピオニー」
「……知ってます」
「なら話しが早いわーここの人でしょ、これ…」
「でも僕はここの家の人じゃありません」


ふいって金を揺らして少年が中に入る。開かれた間々の扉は入っていい証だろうがレイヴンは頭が真っ白になった。




はぁ!?なにそれ、じゃあなんでおたくそんな鍵持ってるわけよっ




差し出しかけた風呂敷包みが腕に痛む。小さくお邪魔します、と口にして周りから怪しまれないよう扉を閉めた。

小綺麗な家、とはいえ殺風景なぐらい玄関の棚にも廊下にも何もなかった。
しかしぺたりぺたり歩く床は滑らかなもので掃除が行き渡っているのが分かる。
鼻を擽るのは室内その間々の匂い。
陽射しで硝子が僅かに発光する扉の向こうで声が聞こえ向かえばリビングの広い室内は眩しくレイヴンは額に本を宛がう。
一度閉じた瞼を開ければ普段より狭めた視界に入ったのは床に置いた長い枕の上下に眠る白と黒。

金の少年が黒髪の小さな体を揺らしていた。




ああ、今更ですが先輩。




「…ん、…う?なんだ…ふれん…」
「………ユーリ、他人に合鍵は渡すものじゃない…」
「でゅ…ーく、どこみてんだよおれはこっち」

「二人とも寝ぼけすぎだよ!お客さんだよ」




感謝してます。何年振りだろう、この高揚感は。






(久しぶり、デューク)
(え?知り合いなのか?なあ、でゅーく!)
(………すまない、誰だ?)
(それはないでしょ、それは!)
(ふれんーこいつフホウシンニュウー!)
(警察呼ぶ?)
(ちょっとまって少年達!)







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あきゅろす。
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