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「土方さん、いいニオイですねェ」
「…あっ!?」

総悟のふざけた声で気づいた時には遅かった。
目を落とすと、フライパンの中のハンバーグはすでに無惨な姿に変わり果てていた。

「何してんですかィ、まったく」
「……」
「仕事中にボケッとしやがって真面目に働けよ土方ァ」

何言ってんやがんだ。隙あればいつでもサボろうとするくせに、真面目に働けだなんて間違ってもお前には言われたくねえ。
なんて言い返したくても、今現在ミスをしでかした俺の方が明らかに分が悪く、喉まで出かかった言葉をグッと飲み込み、冷蔵庫から新しい具材を取り出す。

「…ワリィ、すぐ作り直す」
「どうせまた旦那でも見てたんですかィ?」
「なっ、に言って」
「おっと、気をつけてくだせェよ」

手元からするりと落ちたタッパーを総悟がヒョイと掴む。しまった、危うくまた無駄にするとこだった。

「どうやら図星の様ですねィ」
「ち、ちが、」
「そんなあからさまに動揺しながら言われてもねェ」

面白いオモチャを手に入れて楽しくて仕方がない、と言うのを隠しもせずありありと表した顔で総悟が俺を見る。
ああ、なんだってこんな奴に悟られてしまったのだろう。

「旦那がオーダーを取りに行く度にチラチラチラチラ、そんなに気になりますかい」
「……」
「おや、またあの人お客につかまってますねェ」
「えっ」
「冗談でさァ」
「テメ、」
「ほら、早くハンバーグ焼いて下せェよ。ったくこの役立たず」

今ここがバイト先でランチの忙しい時間帯じゃなかったら絶対しばいてやる。調子づきやがってこの野郎。
そう怒りが込み上げてくると同時に、総悟にバレてしまった自分の不運を恨めしく思った。自分の詰めの甘さが憎い。

「あれ、またあのお客だ」
「……」
「土方さん、ほら見て下せェ」
「あぁ?」
「ほら、あの眼帯の、旦那と喋ってる」

眼帯。その言葉に手を止めホールに視線を移す。
見ると、総悟の言う通り左目に眼帯をした怪しい雰囲気の男が一人、端の席に座って坂田と親しげに喋っていた。

「最近よく見かけますねェ、あの男」
「坂田のダチ、らしいな」
「おや、さすがストーカーは調べあげてますねィ」
「誰がストーカーだ!」

人見知りなどせず誰とでもすぐに会話を始めるアイツは、例え客相手だろうとダチのように軽いノリで接するのでなかなか区別がつかないが、あの眼帯の男とは本当の友達である、と以前に確認済みだ。

「ダチ…、と言うよりもしかして恋人なんじゃねェですかい?」
「はぁ?」

妙な顔をしながら言う総悟の言葉にすっとんきょうな声が出た。
恋人、と言ったか今こいつは。

「なに言ってんだテメー」
「だってあーんな雰囲気の男がダチが居るからって理由でわざわざ何回もこんな女共に人気のカフェに来ますかい?それも一人で」
「それは…、別に来たっていいだろう、別に」
「旦那が心配でチェックしにきてんじゃないんですかねェ」
「いやだってアイツら男同士じゃねェか」

そんな訳ねェだろう。言った俺の言葉に、総悟が「おや」と首を傾げた。

「土方さん、なに言ってやがんでェ。アンタも男じゃねェか」
「う、」
「自分だって男なのに旦那に惚れておいて、テメーは棚上げですかい」
「いや、それは」
「それにねェ、」

堅物のアンタが惚れたくらいでさァ、同じような考えを持ってる男が他に居ても不思議じゃねェでしょう。
やけにゆっくりした口調でまるで諭すように総悟が言う。

「旦那は男だけどカワイイですからねェ」

土方さんも大変な人に惚れちまいましたねィ、気の毒に。と絶対気の毒に思ってない総悟の言葉を絶望の心地で聞く。
そういややけに仲がいいなとは思っていたんだ。そんでやけに来るな、と。
ああ、言われてみれば思い当たる節がちらほらと。
いやでもまさかそんな。

「アララ、そんな顔するなら旦那に直接聞いてみればいいんでさァ」
「……」
「まあ、ヘタレなアンタじゃ無理ですかねェ」

確かに直接聞くなんてとても出来ない。ヘタレかどうかは置いておいて、だ。

「あ、土方さん」
「……あ?」

「ハンバーグ、また焦げてますぜ。」











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