[通常モード] [URL送信]

小話


 御堂静(ミドウ シズカ)は思わず体を起こしてしまった。
 全身が汗でびっしょりと濡れかなり気持ち悪い。
 全力疾走したときのように心臓はバクバクと鼓動を打ち、治まらない。
 夢を見ていた気がする。
 初めはすごく幸せな夢だった。けれど起きる直前は、最悪だった。
 内容は覚えていないが、感覚だけは覚えている。
 それと、

「……アールゼル」

 と言う名前。
 一体誰のものなのだろうか。
 唇にそれをのせると、すごく幸せになれる。
 胸がうずいて、すこし照れ臭い。
 しばらくその幸福を味わっていると、居間の方から呼ばれた。
 朝食ができているらしい。

「今いくー」

 パパッと着替えを済ませ、部屋を出た。
 夢のことなど、その時はすっかり忘れてしまっていた。



 登校してから静は友人と語らいながら時間を潰していた。
 昨日はどんなテレビを見たか、あのゲームのここがすごい、あの女優と付き合ってみたい。
 ごくごく普通の日常だった。

「なあ、御堂! 昨日の課題できてる?」
「あぁ、あと一問残ってた気がする……」
「見せて!」
「えぇー」
「あ、俺にも!」
「俺も俺も!」

 男子はこぞって静を拝み倒し、女子は遠くからブーイングを飛ばしていた。
 静くんになついてんじゃないよー、など声が聞こえるが、結局折れるのは静の方だ。

「じゃあ、一人一個なにかお菓子をちょうだい」

 課題のノートを片手に小首を傾げながら言えば、男子は教室から駆け出していった。
 静が望んだお菓子を買いに行ったのだ。

「はーい、静くん」
「ありがとう」

 女子は静に飴をあげることが日課となっている。
 見返りは笑顔を頂戴、らしいが飴を貰ったら自然と笑顔になってしまうから安上がりで嬉しい。
 SHR前に男子は帰ってきて、購入してきたお菓子を静に献上した。
 ニッコニコの笑顔つきで課題のノートを手渡され、男子たちは狂喜乱舞している。
 現金な奴らだ。

「おーら、席つけぇ。お、御堂旨そうなもん持ってんじゃねぇか。一つ寄越せ」
「だめ。これは僕のだもん」
「へーへー、けちくせぇ。SHRはじめっぞー」

 鞄にお菓子を詰め込み、ポッキーを一本頬張る。
 ポリポリと食べながら外を見ていると、連絡事項を聞き逃したが、大したものはないだろう。
 空を見ると、清々しいほどの青空が広がっていた。
 あの空を飛んでみたい。
 いや、あの夢の中では飛んでいた。
 漆黒の、烏みたいな羽で。
 はぁ、と悩ましげなため息をつくのと、教室が沸くのが同時だった。
 突然騒がしくなった室内に驚き、ポッキーを口から落としてしまった。
 元凶を探るべく、教卓の隣を見れば、担任の隣に堂々と立っている外国人がいた。
 スラリとした長身の体躯。短いが色気のある金色の髪。甘さを湛えた鮮やかな緑の瞳。
 ドクンッ、ドクンッ、と力強く心臓が鼓動を打つ。
 興味なげに教室を見ていた緑の目が静を捉えた。
 驚愕に目を見開き、そしてずかずかと近付いてくる。
 ガシッ、と肩を掴み何かを言おうとするが、金髪の彼は口をへの字に曲げてただ開閉するばかり。

「あ、……あー」

 どこかバツが悪そうな顔は、静の記憶を呼び覚ますのには充分だった。
 ぽふん、と金髪の彼の胸に収まると、猫のように擦りついた。

「覚えて、いるのか?」

 外国人面をしているのに、流暢な日本語だ。
 クスクス笑いながら静はうなずくと、とたんに強く抱き返された。
 額に唇が降ってくる。

「僕は……御堂静っていうの。君は?」
「俺は、アールゼル・フォンリヴィール」
「アル、今度は僕の答えを聞いてくれるよね?」
「もちろんだ」

 僕も、愛してる。

END

 嗚呼、文才が欲しい。
 つまり、生まれ変わって、出会い頭にハグしちゃいましたよってことです。
 ついでにちゅーもしちゃいます。
 しーちゃんはクラスのアイドル。いや、マスコット。
 勉強できるけど運動神経壊滅的。
 ポッキーはお菓子の中で一番好き。
 あーくんはイギリス生まれの日本育ち。けれどバイリンガル。
 国籍は……どこなんだろうね!
 本当は前のページで終わらせるつもりだった←


[*前へ][次へ#]

4/7ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!