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小話
天使と堕天使

 ふわり、と彼は花園に降り立った。
 背中から広く伸びている漆黒の翼は一瞬の内に消えた。
 病的に白い肌。それと対照的な漆黒の髪。
 さらりと流れ落ちる髪は艶やかで、枝毛なんてなさそうだ。
 まとう衣も真っ黒で、黒ばっかり。
 それは単に、彼が堕天使だからだろうか。


天使と堕天使


 堕天使である彼が、このような長閑できらびやかな花園にいるのは、何だかミスマッチだ。
 憂えたその秀麗な顔を顰めると、その場にうずくまった。
 長らく、天と地の世界で争いが続いている。
 彼はもうそんな日常に疲れきっていた。
 仲間内でも喧嘩が絶えず、派閥争いなんてものもあるし、面倒だ。
 地の世界は不毛な景色だ。
 光もなければ、花もない。どす黒い大地には点々と枯れ木が立っているだけだし、空なんて暗雲がいまにも落ちてきそうなくらい、一面に広がっている。
 この花園はそんな天と地の間にできた、いわば憩いの空間だろうか。
 堕天使はポスンと寝転がった。
 あまやかな花の匂いが漂う。
 この空間には沢山のものがある。光、空、水、花。
 けれど、彼以外の生き物は見たことがなかった。
 それは本当に偶然居合わせなかったのか、それとも本当に存在しないのかわからない。

「……きれいなものは、きれい」
「確かにそれは心理だろうな」
「っ!?」

 しかし、今日は違ったみたいだ。
 ガバッと起き上がり、見回す。
 足の方に泰然と立っている、白い羽の天使。
 金の長い髪は腰の辺りまであり、ゆるくウェーブがかかっている。
 健康的な肌の色に緑の瞳が印象的だ。

「だ、だれ?」
「あ? 見たとおり、天使」
「あ、そうか……」

 つい納得してしまった。
 見た目から天使以外考えられないだろう。
 何せ天使然とした男なのだ。
 ふむふむと自問自答して納得していると、天使はブフッ、と吹き出した。

「お、お前、かわいい!」
「は!?」
「天使で納得するとかっ! フツー、名前を教えろとか言うだろっ」
「あ、う……」
「ぶはっ、う、だって、う! いいねぇ、かわいい!」

 なんだか反応する方が彼のドツボにはまってしまうみたいだ。
 堕天使は黙って天使が落ち着くまで待った。
 十分くらい、天使は爆笑した。
 いや、あれは爆笑と言うレベルではない、大爆笑だ。
 文字通り、抱腹絶倒。

「いやー、わりぃわりぃ」

 ひー、と目尻に浮かんだ涙を拭いながら天使は堕天使の隣に座っている。
 悪い、なんて微塵も思っていないだろう。
 ムスッとしてそっぽを向くと、クククッ、と笑われた。
 何をしても笑われるなら、反抗的な態度はまた彼のドツボだ。

「……あなたは、ここによく来るの?」
「ん? まぁな。上でもここを知ってる奴は俺くらいなものさ」
「……戦争、参加しなくていいの?」
「そりゃ、こっちのセリフだな。堕天使長のシーズィ様がこんなとこで油売ってていいのかよ」
「知ってたんだ、僕が堕天使長だって」
「まぁな。で、答えは?」
「僕は……僕の堕天使嫌いは公認だから、別に参加しなくてもいいの」
「は? 仲間が嫌いなのか?」

 コクンとうなずいた。


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あきゅろす。
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