十、鬼の本性
最近自分はどれが本物のあの男なのか解らなくなってきた。戦場で冷徹に傲慢に軍を統べる姿。前線で赤にまみれて嫣然と笑う姿。配下たちを可愛がる姿。無機物に陶然と縋る姿。花鳥風月を愛でる姿。無邪気に仲間を切り捨てる姿。長曾我部元親という男は、頭がいいのか悪いのか、無防備なのか策士なのか、冷徹なのか大らかなのか、何もかもが矛盾だらけだ。

「俺は鬼だ。それだけわかりゃ充分だろう」

今日もあの男は石榴の瞳を眼帯の奥で光らせながら、血紅の唇でやわらかく笑う。それでいながら指先で与えたばかりの我の傷口を抉り、その後手ずからこの傷口に薬と包帯を与えるのだろう。何という理解し難い存在。
いつか己はあの鬼の本質が解るのだろうか?



十、鬼の本性

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