本とあなたと退屈と(就親)
人は自分を理屈っぽいと言うが、自分ではそうは思わない。むしろ理屈などこねるだけ面倒な上、論理的思考にもさしたる興味がわかない。どちらかと言えば、自分は必要最低限の情報と理解出来る分だけの現実が有れば満足なのだ。
理屈っぽいと言うなら、自分の目の前で人の書を勝手に読み耽っているこの男の方だと我は思う。

「元親、人の書を勝手に漁るでない」

「んー?んー…」

聞いていない。いつもの事だが実に不愉快だ。大体日頃は、難しい事など何も解らぬという顔をしている癖に。しかしこやつは、実際の所は無意味に頭の回転が早い。
我とて今は智将などと言われておるが、幼い頃は今の元親よりも余程活発であった。元親は逆に今でこそアニキなどと部下に言わせ海賊を気取っているが、幼い頃は書を読むばかりの引きこもりでしかなかった。しかし、その引きこもりの時間がこやつをこの様に理屈っぽく面倒な理論と推論と定説を混ぜ合わせて引き伸ばした物を嬉々として弄ぶような男にしたのであろう。…今更だが、こやつは普段猫を被っているのであろうか?我の前と他の者の前で態度が違い過ぎないか?(特に部下の前と!)

「元親」

「んー?」

「元親、少しは我を構え」
「おー」

頭を撫でるな、頭を!他に構い方など幾らでもあろうが!茶の湯でも酒でも、将棋でも碁でも!
大体我は訳の解らぬ話に延々と頭を悩ませる趣味も、書ばかり延々と読む耽る趣味もない。悩む前に答えを求める性分であるし、第一そんな下らぬ事に時間を使うくらいなら日輪を崇めた方が余程有意義というものだ。

「元親、書はもうよかろう」

「後少しだって」

「嘘を申すな、嘘を。後半分近く残っておるではないか」

「この項だけ読んだら終わる終わる」

…そう言って、全て読み終わるまで書を置いた試しが無いのはどこの阿呆だ。阿呆親め。仕方なく、部屋に積まれるばかりの書を一冊とり、捲ってみる(我が部屋ながら見事な山だと思う)
……面倒だ。この様なもの読んだとて何の役にもたたぬ。別に我とて書を読むのが嫌いな訳ではない。暇つぶしには悪くないし、新しい事を知るのは面白いと言えなくもない。が、こやつ程ではない。もう元親の本好きは異常なのでは無かろうか?偶に我は、我と書とどちらが好きなのだと問い詰めたい衝動に駆られる。…無論、そんな愚かな真似はしないが(別に読書中の元親なら九割方書と答えそうだからという理由ではない。断じて無い!)

「構え」

「構う構う」

「今すぐ構え、直ちに構え、即座に構え、早急に構え」

「あと少しなんだって」

「聞き飽きたわ、阿呆親」

聞き飽きた。本当に聞き飽きた。大体、何故我の所に来てまで書を読むのか。まったくもって気に食わぬ。

「もとち、」

「そんな嫌なら、新しい書が手に入ったーなんて理由で呼ばなきゃいいのによう。本当、馬鹿だなお前」

「…煩いわ、この阿呆親」

煩い奴だ、本当に。別に我の部屋が我自身開いた事すらない書の山なのも、我が書を読むようになったのも、読まぬ癖に次から次へと書を求めるのも貴様のせいなどではない。自惚れるな、阿呆親。

「仕方ねえなぁ…。まあ、とりあえず茶でも飲みながら、碁でも打つか?」

「……ふん、今日は負けぬぞ」

「前は引き分けだったなぁ、そういや」

まあ、今日の所は。心地よい日輪の暖かさと美味い茶菓子と書を読みかけで置いた事に免じて、貴様の自惚れには目を瞑ってやろうと思う。





世間と逆行してます!読書好き元親と読書しない元就。緋遊の趣味に走りました(爆)マイナー?知ってる(にっこり)
でも緋遊は自重しませんごめんなさいm(_ _)m

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