ゴーストは病み色の腕で
ひたりと背中に濡れた気配。鬱々とした闇のなかで、その気配は嫌に鮮明に知覚できてしまい元親は思わず息を飲んだ。


ああ、来やがった。


慣れた気配といっても構わないほどに、その陰鬱な気配は元親の周りに頻繁に現れる。それは決まって戦の後の夜で、一度気がついてしまえば濡れた気配からはなまぐさい血と腸の匂い。べたりと背中に無遠慮に触れてくるそれに何度気が狂うかと思ったか知れない。こんなあからさまな死臭と冷たさに何度も何度も晒されて、平気な顔をしろというのがどだい無理な話しなのだ。不意にぼそりぼそりと耳に響く恨み言。ひゅうひゅうと浅くかすれ始めた自分の呼吸が邪魔だ。


ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう


己を保つため拳をきつく握れば、ぶつりと皮膚が破れる感触。溢れた赤い液体にはすぐに何かが絡みついた。どうしようもなく不愉快だった、気持ち悪かった、泣きたかった。涙が零れるかと思ったが、眼球はむしろ乾燥していて痛いほどだ。それなのに自分の中に取り残されたままの姫はめそめそと、元親には流せない涙を惜しげもなく流している。


消えちまえ、


全て錯覚なのかも知れない、幻覚なのかも知れない、けれど動けないのだし見えないのだから確かめることもできない。意識の端にまで手を伸ばしてきた濡れた気配は、ただやわやわと元親を嘲笑うばかりで意識を途切れさせることすら出来はしない。恨み言が絶えない、死臭が消えない、指先にまで纏わりつくのは生暖かい死肉の手触りだ。吐き気でいっそ目眩がする、いつの間にか手のひらに食い込んだ爪の痛みさえ感じなくなっている。馴染んだ筈の海鳴りでさえ、何故か見知らぬ誰かの呻きに似て聞こえだした。


消えちまえ、何もかも消えちまえばいい


こんな浅い呼吸では満たされないと肺が苦痛を訴える。それでもまるで見えない手に気道を直に握られているかのように、どんなに息を吸っても酸素は狭まった気道を抜けられずにいた。目眩が強くなる、じっとりと嫌な汗が背に滲んできたのも分かる。それでも闇は闇のまま、静かにくずおれた元親を嘲笑うだけだった。



激しく不完全燃焼。怖い話が書きたかっただけです失敗しましたが。そして設定が不明すぐる。

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