F
次の日。
雨はまだ降りつづいていて、心配していた朝練は見事に中止になる。
「うっす」
教室に入ると、一番に花井の姿が見えた。
「あれ。珍しくね?それ。」
と、花井は俺の紺色のセーターを指した。
「てか、阿部がそんなん着てるの、初めて見たかも。」
「…そーか?」
何てことないように俺は答えた。
が、実のところ。
昨日、寒がる三橋に何も渡せるものが無かった自分が少し、悔しかったから。
タンスから引っ張りだしたんだ、これ。
どーせあいつのことだから、またしょーこりもなく、アイス食って腹こわしたりするんだろーよ。
……あ。
こんなんだから泉に「構いすぎ」とか「過保護」とか言われんじゃねーの俺。もしかして。
……まぁいい。
昼休み。
花井が職員室に呼ばれていった。
ゆっくり弁当を食う暇が無いのはキャプテンの宿命ってやつだよなぁ、と教室に戻ってきた花井がしぶしぶ言っていた。
今日の練習はグラウンド整備で時間とられそうだな。
そんなことをぼんやり考えていたとき。
お約束のように、田島や泉、栄口たちが教室にやってきた。
「はっないぃーーー!!今日の部活はぁー?」
「ある!てか田島おまっ、弁当食いながら来るんじゃねぇよ!」
なんと、弁当片手に田島がやってきた。脇には購買で買ったと思われるパンを挟んでいる。
さすが田島。どんなときも一筋縄じゃいかねぇ男だ。
俺は呆れるような安堵するような微妙な気持ちになる。
…あれ。
どやどやと、なだれ込むように教室に入ってくる野球部連中を見ながら、俺はある違和感を感じる。
あれ、あれ?
いつもなら、田島の次か、栄口の後ろに隠れてやって来る、あいつの姿が見えねぇ。
続いて沖、西広がドアをくぐってやって来る。が、しかしあいつの姿は見えねぇ。
「三橋は来ねえよ。」
ギクリとする。
お前は俺の心が読めるのか。
通りすがりの泉を睨んだ。
「なんで。」
「知らねぇ。」
それだけ言うと、泉は田島たちの輪に紛れていってしまった。
一昨日の、昨日の今日だ。俺は何となく嫌な予感がした。
一昨日、泉に変なことを聞かれてから、昨日、三橋にあんなことを聞いてから、そして今日。
あいつは来ない。
ま、いーや。
どうせ部活には来るから、何かあればそんとき聞けンだろ。
俺は、自分で自分に言いきかせた。
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