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落ち着け俺。
ほら、三橋が余計にビビってんぞ。
自分に言い聞かせ、立ち上がりかけた腰を降ろし、一呼吸おく。
「…上着とかなんか、持ってきてねーのかよ。」
「ち、ちが…」
ごめんなさい、と三橋は続ける。
正確に言うと、「ご」と「め」と「さ」しか聞こえなかったが、さすがに毎日聞いてると、最初の一文字を聞いただけですぐにわかるようになる。
「あのおお 俺、あ いす…」
「あぁ?イス?」
「さっき、ア…」
「アイス食ったもんなーみはし!!」
不意に田島が割り込んでくる。
コイツはいつでも元気がいい。
特に三橋とずっと喋っていると、逆に田島のほうが人間離れしているような気がしてくる。
「アイスっておめ…。今何月だと思ってんの」
「じゅういちがつーー!」
季節じゃねぇだろ。
と俺がいうと、阿部はわかってねーなー、かわいそーなやつだ、と田島は言った。
「せめてこの時期ならあったかいもん食えよ。たい焼きとか焼き芋とか肉まんとかさ。何でもあるだろ。」
わざわざ自分から体冷やすようなもんを食うな。
そう、ほとんど三橋に向かって俺は言う。
すると泉が、あの泉がまるで昨日の帰りと同じような顔でこちらに寄って来た。
「だから!阿部は過保護過ぎんだって!」
「…ハァ?」
いきなり喧嘩腰の泉に、俺の眉間がピクリと歪む。
「三橋だって、そんな調子でお前から入部当初からくどくど言われてンだから、もーいい加減ほっといて欲しいんじゃねーの?」
泉の言葉に、場の空気が一瞬止まる。
俺はちらり、と三橋の方を見た。
俺よりも周りの奴らよりも誰よりも困った顔をしている。「アアア」とか言いながら口をパクパクさせて青ざめている。
なんなんだそれ。
「……お前はどー思うよ。」
本当なら泉に直接言い返してやりたいところだけど、こういう場合は本人に意見させるのが一番良いと思った。
三橋はひたすらに困りながら。無駄にキョロキョロと頭を振るので、その頭を両手でガシリと押さえつけてやる。
「文句があるならこの際だ。ハッキリ言え」
しかし俺は、三橋の答えなどとっくにわかっている。
こいつは誰かを否定するようなことは絶対に言わないのだ。
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