C
「…べ、くん」
べくんって何だよ。
俺は、わかっていつつも振り向くことをしない。
こうやって気付かないふりをすれば、あいつはもう一度俺の名前を呼ぶ。一回り大きな声で。
これは、あいつのためなんだ。
小さい声でも、出せばきっと俺以外の奴は耳を傾けてくれる。やさしーからな。
でもそれじゃダメなんだ。
気付いてほしいなら、気付くまで呼べよ。
伝わってほしいなら、伝わるまで話せよ、なぁ。
「あ 阿部くん」
三橋。
「あ、なにお前。いつからいたの。」
なんてエラソーなことを言ってる俺は俺で、知らないふりを平気でする。
性格が悪い。
よく言われるからわかってる。
だけどさ。待ってましたー、なんて顔で振り向くのカッコワリーじゃん。
「つかお前、ちゃんと昼飯食った?顔色あんま良くない気がすんだけど。」
椅子の背もたれに腕を乗せて、今度こそしっかりと三橋に向き合い、目を合わせて話そうとする。
がしかし、俺がそうしようとするときに限ってなんだ。
コイツはやたらビクつくんだよな。
「たたったた食べた!はは早弁もした よ!オニギリふたつ…」
「ふーん」
「う あ ささ」
「…ンだよ。ハッキリ言えよ」
「さささ、さむい」
「……寒い?!」
ガバッと、思わず花井のセーターを引っ張って脱がそうとした俺は確かにバカだと思う。
でも俺シャツしか来てねーしさ。
それに、体を冷やすのは禁物だ。何と言ってもケガしやすくなるからな。
そう、ケガしやすくなるから。
お前がケガしたらチームが大変だから。
「さささ、さむくっ、ないよっ!」
「うそつけ!たった今寒いっつったろーが!アァ?!言ったろ?!」
しかし、心配してるはずなのに何でこんな脅し口調なんだ俺は。
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