K






キーンコーンカーンコーン。

昼休みを告げるベル。
鳴り止むのを待たずに、教室から飛び出すクラスメイトたち。
きっとみんな、購買のパン争奪戦に向かってるんだ。


で、でも俺は、弁当がある ぞ。
カバンからもそもそと、弁当箱を取り出した。青いチェックの包まれたいつもの弁当箱。
今日もおにぎりを二つ、お母さんに作ってもらって、それを食べた。
だから大丈夫。
阿部くん、心配しなくても、俺は大丈夫だよ。


「みーはーひーっ!!」

口の中をモゴモゴとさせながら、田島くんがやってきた。
田島くんは、す、すごいぞ。
俺はまだ弁当箱の包みを開けてもいないのに、弁当箱がほとんど空っぽだ!


「あ た、田島くん!」
「メシ食ったら、またアイス買いにいこーぜアイス!!くひっ」
「行く!あ、アイス…」

ハッ、として、この間食べたアイスと一緒に、阿部くんの顔が浮かび上がった。


『せめてあったかいもん食えよ。』


あ、そうだ。
冷たいものは、食べちゃだめだ。
体を冷やすから、良くないんだ。


「や、やっぱり俺、やめとく よ!」
「えっ?!何でー?!」

行こーよ行こーよ、と田島くんはまだ俺を誘ってくれる。
俺も、本当は、食べたい。すごく食べたい。
でも、ダメなんだ。
阿部くんに言われたこと、言われないでも守らなきゃ。
ダメなんだ。

「なんだよー。三橋もついにアベ病にカンセンしたかー?!」

ちぇ、と俺のことは諦めたのか、気がついたらもう田島くんは泉くんの席にいた。

はふ。
と一息つく。


とりあえず、二つは守れた!
言われなくても、一人で守れたよ。
きっと、阿部くんにしてみたら小さい小さいことかもしれないけど、俺、ちょっとずつでも進歩していきたいんだ。



昨日、その気持ちを阿部くんに伝えようとして。う、うまく言葉にするのが難しくて。
でも阿部くんは、まだ全部を話しきらないうちに、どこかへ行ってしまって。

伝わったかな?
俺の気持ち。
ちゃんと、阿部くんに届いたかな?


阿部くん。

阿部くんがいなきゃ、こんな風に思うことも、なかったんだよ。

俺は何にも気付けないまま、ずっと生きていたかもしれないんだよ。


ありがとう、って言ったらまた。
阿部くんは呆れるかな?





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