I




言葉が出ない。
ひとつも。
何と返してやればいいかわからない。

俺はただ呆然と立ちすくむ。

だって三橋が。
あの三橋が怒鳴った。


「あ……あのさ、みは…」
「もういいんだ!」

俺がようやく搾り出した言葉は、またしても三橋の声によって遮られる。

「もういいんだ…」

何が?と、尋ねる言葉すら声に出ない。

「お、俺はもう、だいじょうぶ だ、よ」

そして三橋は、目を合わせてくれない。

「阿部くんには、もう心配…かけないから」

どうゆうこと?
俺は表情だけで訴える。

「俺は、いつも阿部くんに…よ、余計な心配ばかりかけて…ひ、ひとりじゃなんにも、できなかった、けど」

けど?

「それじゃダメなんだって、俺、思った……阿部くんに、いろいろ言われるようじゃ俺は、ダメ、なんだ!」

「俺、ひとりで出来るように、なる!自分のことくらい、自分で、なんとかする!」

だから…、と三橋は続けた。
だから、何?
次の言葉に、三橋が言いたいことの全てが詰まっているような気がした。

そして同時に。

ああ、嫌な予感はこれだったのか。
と、心のどこかで既に俺は、悟っていた。


「阿部くんとのバッテリーを、ちょっとの間……解消したい、んだ」





ポトッ。
ポンポンポン。


右手から、ボールが滑り落ちる。


まるで時間が止まったようだった。












「……あ、そう。」


酷く間の抜けた声だと思った。自分でも。

情けない。
こんなことで動揺するだなんて。
この俺が。


「あ、阿部く……」
「わかった。」


話しかけていた三橋を無視して、俺は落ちたボールを拾い、その場から離れた。

わかった、って。
それしか言えないのか。
他に何か、言い返す言葉は無いのか、俺。





気が付いた時にはもう、俺は、田島にボールを手渡していた。


「えっ、何?!何コレあべーっ?!」

突然のことで、田島は意味がわからないようだった。
しかし、そんな田島もまた置き去りにして、俺は、ただひたすらにグラウンドを突っ切って歩いていく。


「ちょ、おい!どこ行くんだよ、阿部!」

俺の行動の異変に気付いた花井が声をかけてくるが、それにさえも足を止めず。


「目ェ、ゴミ入った。洗ってくる。」


それだけ呟いて、俺はひとり水飲み場へ向かった。


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