閑話・日本で、彼は。
「やぁ、邪魔してるよ」
「なんでヒバリさんが此処に!?」
「今日は赤ん坊に用があって来たんだ」
夕刻、崖を上るなどという過酷な修行を終え家へ帰ってきた沢田綱吉の部屋にいたのはヒバリこと雲雀恭弥。彼は今頃自分の兄貴分と修行中では、と内心首を捻る。実は彼は跳ね馬ことディーノとの修行を抜け出して来たのだが・・・・・・そうまでして尋ねたいことが彼にはあった。
「俺にか?」
「・・・・・・今日跳ね馬が沢田綱吉のファミリーの一角を担えって言ってたから、君なら知っているんじゃないかと思ってね」
「何だ?」
そこで初めて彼は少し迷うような素振りを見せた。いつもとは違うその様子を見て、再び首を捻る。数十秒後、彼は口を開いた。
「この間僕のところに届いたコレ、」
「え、あ、ボンゴレリング・・・」
「中途半端で分かりにくいけど、雲なんだろう?」
「そうだぞ。なんだ、ディーノから聞いてねーのか?」
その問いに彼は肯定を返す。ついさっきまで指輪に興味など無かったのだから、話など聞く気も無かった。しかし、ふいに幼少の頃の記憶が頭をよぎった。『雲』という言葉を聞いたときから感じていたソレ。
「このリングに、『孤高の浮雲』とかいう言葉は関係しているかい?」
「へ?ここうの・・・?」
7年程前に会った少女。気分が晴れなくてイライラしていたときに見つけた少女。自分の憂さ晴らしにちょうどいいと思い近づいた不審者に自分より先に一本背負いをかました金髪の少女。名前は・・・フェルメール。
「まぁ、関係なくはねーかもな。雲の守護者は『なにものにも囚われず我が道をいく浮き雲』。確かに言い方を変えれば『孤高の浮雲』も間違いじゃねぇ」
そう、と一言彼は言った。彼女が言っていたのはこれだったのだろうか。1人納得したような彼とは逆に何がなんだかよく分かっていない沢田綱吉。彼から視線をはずし、自分より会話の流れが分かっているだろう小さい家庭教師に小声で問う。
「おい、リボーン。なんなんだよ一体」
「さぁな。ヒバリにも考えることがあるってだけだろ」
「・・・・・・」
もう一度黙ったままの彼に目を向ける。本当に何なんだ。と、思ってすぐに彼は顔を上げた。それに驚きつつも次の彼の行動を待つ。
「じゃあ、質問を変えるよ。フェルメール、という名前に聞き覚えはないかい」
「・・・何故奴の名を知っている」
フェルメール?まったく話についていけない。疑問符が頭の中で踊っているようだ。が、その反対に彼の傍にいた家庭教師- -リボーンは表情には出さなかったが、焦っていた。
9代目からの提案はもちろん家庭教師である自分にも伝えられていた。いや、自分だけではない。ハーフボンゴレリングを渡された者以外の関係者の人間は殆どが知っているといっていいだろう。自分の教え子の1人であるディーノもしかりだ。今回の大きな目的はボンゴレ10代目候補である沢田綱吉と、その守護者候補である6名を鍛える事にある。
フェルメールの名は、自分の知る中で1人しかいない。相手の雲役、ヴァリアーの幹部だ。Cruel princessと言う通り名で有名な彼女はその年に合わない静かな雰囲気を出していて、自分の苦手な部類に入る。が、今はその話は置いておくとしよう。
雲役という事はまさに今自分に質問を投げかけてきた彼の相手だ。もし彼が彼女と親しい間柄にあるのなら彼の戦力アップに何か影響があるのではないかと思ったのだが・・・・・・。
「前に一度だけ会ったことがあってね。少し言葉を交わした程度だけど」
「・・・そうか」
「雲ってやつになれば彼女に会えるのかい?」
どうやら自分が思っていたようなことにはならなそうだ。それに安堵しながらも続けて出された問いにどう答えるかを考える。
「さーな。アイツの考えることはよくわかんねーから何ともいえねー。また会えるかとか聞かなかったのか?」
「・・・『君が『孤高の浮雲』ならば、きっと』」
それに驚く。彼女は何かを知っていたのだろうか。やはり読めないやつだ。
「ならそれが答えだな」
「・・・・・・」
そう答えると、彼は満足したようで窓枠に足をかけ、そのまま何も言わずに飛び降りた。それを見送ってから放心状態だった教え子の頭を叩く。
「何すんだよリボーン!」
「いつまでそのままでいるつもりだ。明日もねっちょりやるからな。早く寝とけ」
まだ引っかかることはあるが、全てが終わったあとに聞くことにしようとハンモックに乗る。
まだ騒いでいる自分の教え子の足元に弾を一発お見舞いしてから横になった。
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