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凛様 相互記念U
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学校にあまり手入れの行き届かぬ花壇にひっそりと咲く花があった

風に揺れるその小さな花はひとつの悲恋を知っていた

その小さな花はその悲恋を生んだ恋人達に涙する

涙した花は自分を忘れな草と呼んだ


忘れないで、私の事を

忘れないで下さい


忘れな草はこの言葉を大事にし、待っていた…

約束を交した二人の恋人達が出会う事を待っていた


「…六道?」

「…おや?これは何か用ですか?」

「…用って言うか、まぁそこの花にね」

花壇の前で花を眺める六道に手に持っていたじょうろを見せた
「ああ、これは失礼しました」
「別にかまやしないよ、花を傷付けなければ」

そう言葉を言い六道の隣に並び水を与えた、花がきらきらと太陽の光で輝き

その花の姿をただ黙って見ていた六道

「…忘れな草とは、珍しいですね」

水を与える手がつい止まってしまった

名前すらあまり知られないこの小さな花の事を知っている六道につい驚き、忘れな草?と聞き返してしまった

「この小さな花の名前ですよ」

「あ、うん、知ってるつか…良く知ってんだね、この花」

「まぁ…これだけですよ…知っているのは」

そう言うと一瞬だけ寂しそうな表情で花を見る六道を見た気がした

いつも、どこか掴めない笑顔を見せる六道には珍しいとつい思ってしまい

調子が狂いそうになる自分と雰囲気を消す為、忘れな草の話題を振ってみた

「…じゃあこれは知ってる?忘れな草と呼ばれる由来」

「…ええ、悲恋が元ですね」

「お、当ったりぃ…そうよ、ある女が恋人の男に私を忘れないでと送ったのがこの花だった…ってね」

「貴女も随分詳しいのですね?」

「まぁね?なんなら全部話してみようか?」

まるで、誉められたように嬉しくなり

所属するガーデニング部の知識を引き出し忘れな草の話しをした

忘れな草の名前の由来には、

二人の男女から始まった悲恋が関係していた

内容は小さな村で生きた二人の男女の物語、

この二人の家は貧しくその日を必死に働き生きていた

二人は娯楽を知らず、ただ泥だらけになってその日を過ごす若者だった

しかしそんな苦しい生活の中必死に働く二人は互いに惹かれ知り合った

知れば知るほど二人は惹かれ

二人は時折、ひっそりとは会う事を繰り返した

そして二人は互いに愛し合う中となり結婚の約束を交した

が、男が成人の義を迎えるまで二人の関係は公に出来なかった
なぜなら、成人の義をしていない未熟な男が妻をめとっていけ、そして恋仲にもなってもいけない

それが、村の掟だった

そして、成人の義をすましていない男と恋仲であったと知られれば引き裂かれるのは目に見えていた

それでも、時間は確実に流れ男の成人の義が近付き後少しで二人の結婚という約束が叶いかけた

しかし、ある日女が洗濯をしようとした時、運悪く前日の酷い雨に濡れた土に足を滑らせ更に流れの早くなった川に落ち溺れてしまった

それを見た男は流される女を走り追い掛け、助けようと川に飛込もうとした

だけど、女はそれを止めた

この早い流れに飛込めば貴方も助からないこのまま私を見捨てて下さい、と

それを、男は拒んだ

それでも、女は見捨てて欲しいと願った


今にも飛込もうとする男に女は川に落ちる前に摘んだ名も無い小さな花を男に投げ叫んだ


きっと助からない、でも

忘れないで、私の事を

忘れないで下さい


そう叫んだにも関わらず男は川に飛込んだ

だけど、女に手が届く事が無く男も溺れしまった

二人は溺れ流され、女は見付からず男だけが見つかり助かった

数日意識が無いまま寝込んでいた男は目覚め

川へと向かい、ある物を見つけた

女が流されながらも見捨てるように、自分の事を忘れない様に願い、男に投げた小さな花を

それを思い出し男はそれを拾い抱き締め泣き叫んだ


女を助けられ無かった事に

自分だけが生き残ってしまった事に

もう二度と最愛の人に会えない事に

全てに泣き叫んだ


そして、花に誓った

忘れるものか、君の事も

この花も

そして、きっと死んで新しく生まれ変わっても次も君を見つけて今度こそ一緒になる

そう、誓った




「…そして、この哀れな二人を嘆いた、名も無き花が忘れな草となった…」


「…………」

「ま、花が草と呼ばれる理由までは知らないんだけどね」

「…………」

「ねぇ…どうかしたの?」

庵の話を聞いていた筈の六道からは何の返事も返って来なかった。

黙る横顔に表情があまり良く分からず少し困惑した

「…その男は恨み呪ったのですよ」

「…え?」

「世界を恨み自分を呪ったのですよ」

何も言わず、ただ黙って忘れな草を見下ろしていた六道はぽつりと静かに言った

ちらりと見えた花を見る横顔には何時もの笑顔は無く眉を潜め苦笑していた、その明らかにいつもと違う六道に庵は息を飲んだ

「六…道…?」

「…クフフ、その男はきっと今もその最愛の方を探しているのでしょうね」

楽しそうに笑う声とは反対の歪む顔に少し体が引きつりなぜか冷や汗が出るのが分かった

足が震え庵の力が抜けそうになった時、遠くからチャイムが流れ六道に対する意識が削がれハッとした

「おや?授業が始まってしまったようですね?」

「え…?あ、…うん、ごめん私行くわ」

気が付けば六道は柔和な笑顔に戻り変わらない笑顔を庵に見せ
庵は金縛りから解けたようにじゃあと言い残しぱたぱたと走って行ってしまった

その姿をただ黙って見送る六道、それを見て独特な笑い方をすると聞こえる筈も無い庵の背中に向かい小さく呟いた

「…ああ、そうそう、花に誓った男はその後村を追い出されたのですよ」

村の人間は冷たかった

掟を破り、彼女をたぶらかした罪と言い罵倒し全てを男から奪い盗り追い出したのですよ


そして男は、村人を憎み

力無い自分を呪い

のたれ死んだのです


「クフフ、ああそうそう庵さん、訂正します、その男は今でも世界を恨み最愛の方を探しています」

そして、彼女の言った願いは


忘れないで、私の事を

…この小さな花の事も

それは貴方と私をきっと繋ぐから

忘れないで下さい

忘れなければ離れ離れに別れてしまってもきっとまた会えるから

ねぇ、愛しい人

それでは、また会いましょう?
その花がまた私達を廻り会わすそのときまで

愛しい人、また次の時まで

さようなら

次こそは、一緒に生きましょう?

そう言って男にその花を投げたのですよ

「輪廻を周っても忘れられませんね、この言葉」

木々の葉が少し揺れるぐらいの優しい風が六道を周りを通り更に六道は小さく囁いた


「愛しい人…君は今、何処にいるのですか?僕は…ここに居ます…」

そう切なく呟き、雲一つ無い空を仰いだ

何度、廻っても
廻り会う事は叶わない、

なのに、どれだけたっても、も忘れられない

それだけ愛していた…、今も愛しているのです


愛しい人、君は僕を探してくれていますか?


…愛しい人よ

こんなにも会えない君は違う世界にでもいるのですか?

眉を潜め辛そうな表情で忘れな草を見下ろした


「…彼女は今は何処にいるのですか?」


そう、忘れな草に呟いても返事は返らず忘れな草はただ静かに風に揺れていた


それでも忘れな草は悲恋を生んだ二人が再び出会う事を人知れず待っていた


私を忘れないで下さい

私は貴方達を繋ぐから…



それは、忘れな草のたった一つの願いでもあった



凛様、有難うございまいた^^

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