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短編
あちら側の言い分
*とらあなED




世も末だとアキラは嘆きながらその雑誌を閉じた。
興味本位で読みだした女性専門誌らしいその記事には、体位の特集が乗っていた。
恐ろしくて直視できないアキラは、ひたすらこんなものできない出来ないと譫言のように繰り返しながら、その一方で女はこんな真似をするのかと、少々の動揺を隠せないまま読むのをやめた、と言ったほうが正しいだろう。
そんな彼を前にして、シキはさして表情を動かさずに言った。


「お前はそうだからマグロなのだ」
「…俺は人間だぞ」
「馬鹿が」
「食いたいのか、マグロ」
「褥でお前は何をしている?寝ているだけだろう。そう言いたいだけだ」


その一言は、最後に運ばれてきたケーキを前に目を輝かせていたアキラを凍りつかせるには十分な威力を誇っていた。
寝ているだけとは心外だ。
そう言ってどうなる。
確かに不名誉な言葉だが、訂正してもいいことがない。
シキはそこまで考えて言ったのだろう。
なんというか、恐ろしい。


「動いたほうがいい、のか?」
「上に乗せたところでただ泣くようではな」
「…恥ずかしい、だろ、あれ」
「知らん」


シキはそっけなく言い放つ。
つまりこれは、動いたほうがいいのだろう。
羞恥心の壁が高い。
高すぎる。
ちらりと、先程の雑誌を読み返す。
確かに、動かして締め付けて、といった単語が見えた。
無茶な。


「お前はそれを真似せんでいい」


しかしシキは、先程とはまた違ったことを言い出した。
彼の手が雑誌をかっさらい、代わりに食べかけだったサンドイッチを口に押し込んでくる。
おとなしくそれを咀嚼し、飲み込むと、彼は満足そうに笑った。


「旨いか?」
「…まあ」
「ならば良い」


そう言いながらも、今度は自分用のアイスすらスプーンで掬いアキラの口元に持ってくる。
予てより思っていたことだが、この男はどうもアキラを飼っている動物か何かだと考えているに違いない。


「アンタ、俺をなんだと」
「所有物だ」


聞いた己が馬鹿だったか。
何度も、それこそ耳にタコができるほど聞いてきた言葉を言われて、もはや怒る気にもなれない。
ぐったり体を椅子に預けたアキラを小突き、シキは立つよう促す。
のろのろ立ち上がった彼の耳元に、いきなり低い声が吹き込まれた。


「所有物が売女ではかなわん」


動かぬくらいがちょうどいいのだ。
また褒められているような、けなされているような妙な言葉を。
シキの含み笑いに、アキラは胸板を殴った。
ついでに背中も殴ろうとして、結局握った拳をそのまま下して、足でひざ裏の関節を蹴るに変更してやった。






あちら側の言い分







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あきゅろす。
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