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短編
生きることすべてに
*とらあなED





ガタガタ揺れるトラックの荷台は、そう気持ちのいいものではない。
しかし文句は言っていられないだろう。
アキラは一応、個々の運転手に依頼されてこれに乗っている。
護衛として雇う代わりに運ぶ。
そう言う簡単な契約の下、草しかない風景を先程から見ている。
以前、何年もかけてシキと一緒にニホンを回った。
だが、この景色は見たことがない。
見渡す限り草しかないのだ。
辛うじてはるか彼方に数本の気が見えるくらいである。
こんなトラックなど降りて、寝ころがり一日過ごせたら、きっといい気分になれるのだろうと思った。
思ったところで、アキラは是が非でも移動しなければならない理由があった。
物思いにふける前に、彼の視界にこのトラック以外では数時間前に見たきりになっていた車が現れた。
堅気ではなさそうだ。
トラック運転手が恐れていた輩だろう。
彼も気づいて、速度を落とす。
アキラは刀片手に荷台から下りた。
連れの悪趣味加減が詰まった服装ではなく、きちんと一般人に見えるように、どちらかといえばトシマにいたころに近しい恰好をしているおかげか、彼らはまっすぐこちらにやってきた。

追剥だろう。
最近多くて困る。

さしたる緊張感もなく抜き放った刃に麗らかな春の日差しが反射した。
普段は冷たい光を湛える刃先が、この時ばかりは、少々違う色合いに見えた。




「アンタ、ついてないんだな」



携帯端末は、ノイズを交えながら連れの笑い声をアキラに届けた。
彼はこれまで複数回襲われたという。
対してこちらは追剥を斬ってから、それきり敵は来ない。
恐らく斥候だったのだろう。
まだいくつか気配は感じるものの、距離が離れすぎていていまいち掴みにくくなってきている。
ありがたい話だ。
綺麗に並べて斬った甲斐がある。
トラック運転手までやたら気を遣い、わざわざ荷物である果物をくれた。
力を見せつけることも必要だと、シキは言った。
確かに効果はあるようだ。



「追剥相手に色目を使うなよ」



そこは聞き流したことにして、アキラは身を起こした。
トラックの揺れは相変わらずだ。
しかし、とある気配が近づいてきている。
慣れた気配だ。
あちらのほうが、やはり早かったらしい。



「アンタどうやって話してるんだ」
「貴様と同じと思うな」



いつの間にか恐ろしくゆっくり走っていたトラックから飛び降りる。
きっとあのトラックが襲われることはないだろう。
念のため、適当に布と物で作った人形を置いてきた。
それでも襲われたら、運がないのだ。
遠ざかるトラックを草原の真ん中で見送る。
通話はいつのまにか切れていた。
視認できる範囲にいるなら、わざわざかける必要もない。
トラックと行き違いになる形で現れたバイクには、珍しくまともな服装をしたシキが乗っかっていた。
彼がバイクを運転できるとは思わなかったが、車の前例もある。
シキに後ろへ移るよう手で指示をする。
彼は意外にも従った。
代わりに平然と服の中へ手を差し入れてきたので、振り返りざま言った。



「事故で死にたいならそう最初から言えよ」
「この程度で気が散るのか?お前は」



普通、散る。
何が楽しいのか愉快そうに笑い、おとなしく手を抜いたシキに舌打ちをする。
とはいえ怒鳴ってもどうにもならない。
アキラは結局ため息を吐き、ずいぶん遠くを指さした。



「あそこ、行っていいか」



そこには先程見かけた一本の木がある。
今まで見てきた中では一番大振りで、休むにはちょうど良い。
幸い食事は済ませて、次の仕事まで長い休暇がある。
寄り道も悪くないだろう。
シキは特に何も言わなかった。
彼は、嫌なら嫌だとすぐに言う。
了解の意と取ったアキラは、刀をシキに預けてバイクを走らせることにした。
彼を後ろに乗せて走るのは、トラックの荷台に一人で揺られているよりは、気分が躍るような気がした。









生きることすべてに





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あきゅろす。
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