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短編
甘雨
*とらあなED





どうにもこの男の趣味が分からない。
基本的に目新しいものは手当たり次第に食べているようだが、たまたま今回のものは気に入ったらしい。
最近行く先々でそれを購入して舐めている様を見ると、頭痛を覚えそうになる。


アキラは、ここ数年の間に裏の世界で顔が知られるようになった。
大抵同じ仕事をしているうえ、仕事の話をする際に連れて行っているせいだろう、あのシキの相棒として評判である。
ただし、好みがどうにもおかしい。
その話を種にからかってくる情報屋までいるのだから手に負えない。
酒も飲まず煙草も吸わず女も抱かず、こうして表通りの小奇麗な露店で目を輝かせながらケースの中身を見ているのだから、どうしようもないか。



「まだか」
「いいだろ別に」



アキラは散々迷った挙句、最終候補を二つとも購入した。
迷う意味があったのか。
背中を小突きながら言っても、アキラは普段通り眉間に皺を寄せて怒る。




「なんだよ」
「意味はない」
「アンタは意味なく人間を殴る…よな」




一人で納得したアキラは、シキから普段以上に距離を取った。
せいぜい1メートル有るか無いかの距離である。
シキが歩かないことを確認したアキラは、すぐさま包み紙を破ってそれを口に含んだ。
綺麗な、ピンクやら黄色やら、数色の混ざり合った大きな棒付きの飴であった。
これでまだ舌でも出しつつ舐っていたら可愛いところもあるというのに、生憎この男にそういうものを期待してはいけないようで、先程から随分やかましい音がしている。
なるべくそちらを見ないようにしながら、シキは腕組みをして周囲を見渡した。

復興計画に則って区画整備された街並みは見事の一言である。
ただこれだけ開けていて、遮蔽物のない空間となると、強襲された際に厄介だろうが。
とはいえこれだけ一般の人間が多いと、さすがに襲うのもためらわれるらしい。
普通のものではない視線があちこちから集中しているものの、明らかな敵意は感じない。
恐らく、様子見なのだろう。

アキラも先程から視線をあちこちに走らせているものの、特別緊張をみなぎらせるようなことはなかった。




「…硬い」
「報告しろと言ったか」




いつのまにか棒付き飴を消化したアキラが次に噛みついたのは、千歳飴だったらしい。
硬いかどうかもシキの記憶には残っていなかった。
ただ、アキラがどうにもならないところを見るに、恐らく固いのだろう。
仕方なく舐めたりしゃぶったり、必死になって飴を溶かす。
何をそこまでむきになる必要があるのか。
そう思ってみても、アキラは飴を離さない。
しまいにはこちらの視線に気づいたのだろう、怪訝そうな顔をして見せた。




「…なんだよ」




ほしいのか?

少々細くなった千歳飴をこちらに向けてくるアキラの頬を軽く抓る。




「馬鹿が」
「アンタがじろじろ見てるからだろ」




そう言いながら、アキラは千歳飴を噛み砕いた。
よくもまあ砂糖の塊を好んで食べるものだ。
シキは満足げに飴を食らうアキラを視界の端に収めながら、歩き出した。
つられるように付いてくるアキラは、まだ飴を食べているらしい。


あの口を塞いだら、甘ったるいのだろう。
ただでさえそう感じられるような気がするのに。


シキは嘆息し、振り返った。
意外と間近にいたアキラは、驚いたように目を見開く。




「寄越せ」




そう言い放ち、手から千歳飴を強奪する。
咥えてみると、やはり甘ったるかった。











甘雨









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