短編
にせものの平穏
*とらあなED
一週間ほど前に購入した皿は五枚組であった。
それが、この数日で二枚になっていた。
三枚目は昨日普段通りの喧嘩でアキラがシキに投げつけた際に割れた。
そして、明くる朝、どちらが言うのが早かったか、間の抜けた声の後、陶器の割れる音がした。
二人並んで洗い物などという普段しないことをしたからこうなったのか。
男二人が並ぶには、確かに狭い流し台ではあるが。
「…割れたな」
「割ったのだろう」
いかにもお前が悪いと言わんばかりのシキの視線を受け流し、欠片を摘む。
幸いお互いの足には刺さらなかったものの、品が粗悪だからなのか、すっかり粉々になったそれは、なかなか危ない。
「どけよ」
「必要ない」
「踏んだら面倒だろ」
袋持って来い。
靴に覆われた足の甲あたりを軽く叩いてもシキが動く気配はなかった。
「買って来い」
しかも妙なことを口走りだした。
片付けも済んでいないのに。
アキラが立ち上がって口を開くより先に、頬を摘まれた。
「否は言わさん」
言い出したら聞かないのがこの男だ。
しかし兎に角今は破片を片付けなければ、危なくて仕方がない。
「踏んで刺さったらアンタが抜くんだぞ」
「俺が踏むと思うか」
そう得意げに笑われても、アキラとしては気が気ではなかった。
細かい破片も怖い。
なにかあってからでは遅いのだ。
例え靴を脱がないにしても。
アキラはゴミ箱を漁り適当な襤褸布を引っ張り出した。
それで軽く床を掃く。
案の定、欠片はなかなか多い。
「こういうのが、危ないんだ」
「頭から窓に突っ込む人間の台詞とは思えん」
「あれは急いでたから」
「昨日投げたのは誰だ」
「俺だな」
まあ仕方ない。
欠片を綺麗に片付けたアキラは、立ち上がって一息吐いた。
そして真っ直ぐこちらを見るシキに言った。
「行くか」
皿は一つになってしまった。
にせものの平穏
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