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短編
アラート
*とらあなED





美しい硝子細工が所狭しと並べられ、いかにも高そうなソファに絨毯に、そしてカップ。
こんな中でゆっくりなど出来ない。
しかし依頼人が来ない以上、彼が言った通りゆっくりするほかないだろう。
落ち着きなくアキラは視線をさまよわせる。
傍らの男は普段通りだ。
彼が思うに、どうもこの男、装飾品に興味がないのではなく慣れている。
だから緊張しないのだ。
だいたい一々作法など知っているあたり、その証明に他ならない。
ついまじまじと見てしまっていたからか、シキが此方を見た。
彼の目から視線を外してはならない。
いつの間にか染み付いた癖が、妙な所で出た。



「なんだ」
「別に」
「そうか」
「…なあ」
「なにもないのではなかったか?」



シキは笑い、足を組み替えた。
嫌味なほど長い足が机を蹴り、紅茶が零れた。



「おい、」
「構わん」



ここはお前のものじゃないだろう。
そういう意味も込めてアキラが睨むと、シキは不意に表情を消した。
あまりに唐突な変化だったから、アキラは硬直した。



「なんだよ」



問いかけに答えず、シキが顔を寄せてくる。
アキラは思わずきつく目を閉ざした。
するだけのことをしているくせ、こういうことは得意でない。
お互い、似合わないことだとわかっているから尚更。



「お前は物を知らんな」



シキはすぐに顔を離して笑った。



「強請れたら、教えてやる」



彼の言葉とほぼ同じくして、ドアが開いた。
依頼人の詫びも耳に入らない。
最後に舐られた唇の感触に戸惑いながら、アキラは意図的に深く息を吐いた。
そして、テーブルに隠れたシキの足を踏みつけた。








アラート







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