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短編
ふたりぼっちに成る方法
*とらあなED





ゆっくり歩きたいと思った。
それだけの理由から、アキラは歩く速度を一人落とした。
大きな言い争いをしたわけではなかった。
仕事中の諍いなど数多ある。
ただ本当に、疲れていた。
酷い人混みの中、前を行っていた背中はあっと言う間に見えなくなった。
どこに行くにも大抵一緒の男は、そのくせこういうときはあまり気づかない。
敢えて放っておかれているのかもしれないが。
それが少々気に障ったけれど、アキラはさして問題にはしなかった。
喧しい大通りを抜けて路地を行く。
このあたりはまだ古い街並みが残っていた。
アキラが生まれる前からある街なのだと、連れは言っていた。
古い街は権力の分散が独特だとか、挙げ句この石畳の道の造り方とか。
考えてみると何かとシキに教わっている。
彼はいつもアキラを膝に乗せて、本を読みながら様々なことを聞かせてくれた。
アキラはそれを聞くと、今までの旅はまだまだなのだと思った。
いつか、それこそいつになるかはわからないが、シキが見たことのない街にいくことがアキラの目標になっていた。
二人で見たことのないものを一緒に見られたら、きっと嬉しいだろう。
そんな単純な理由である。
勿論シキには言っていない。
彼はきっと笑う。
それも馬鹿にしたように。
そして、これは願望混じりであるが、アキラの頭をぐしゃぐしゃ撫でるだろう。

そんなことを考えていたら、塒まで戻っていた。
ちょうど寒い。
空も雲が目立つ。
雪という噂は強ち間違いではなさそうだ。
遠慮なくドアを開けると、シキはちょうど湯を沸かしていた。



「雪かな」
「明日は動けんだろう」



何事もなかったかのようにシキは二人分の紅茶を淹れ、アキラを手招きした。
おとなしく寄って行く。
すると、シキの手の甲がアキラの頬に当てられた。



「冷えたな」
「寒いからな」



離れた指先がコップを絡め取り、突き出される。
それを一口飲む。
苦い。
そういえば苦い紅茶を淹れる男に会ったのも、シキが最初だった。
普段ならば顔をしかめてなにかしら入れる。
だが今日は手が伸びなかった。
なんとなくそれもいいと思えたのは、寒さのせいだったのかもしれない。








ふたりぼっちに成る方法






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