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短編
流行りのブランチ
*とらあなED





やっとこさ身を起こしてひとつ、身体を伸ばしながら欠伸を漏らしたアキラの頭を、シキの手が小突いた。
鈍い呻き声を上げたものの、アキラは抗議することなくぼんやり目だけさ迷わせる。
遅い、と言いたげな視線を黙殺し、窓から外をうかがった。
日はそこそこ高いけれど、遅い時刻というわけでもなさそうだ。
そう判断したアキラは、再び毛布の中に潜り込んでしまった。
例によって例の如く無理をさせられたのだから、相棒に起こされる筋合いは無かった。



「いい加減にしろ」



毛布からはみ出た髪を引っ張って、シキは言う。
アキラは答えない。
何が何でも寝てしまいたかった。



「食事が冷えるぞ」



その決心は、シキの一言で少々揺らいだ。
ほんの少し、シキには悟られない程度に毛布を持ち上げて食卓代わりの机を見れば、確かに料理が並んでいる。
トーストにサラダに、残念ながらアキラには作ることが出来ない卵料理まで、しっかりと。
シキはそのスクランブルエッグを、気が向いたときに作ってくれる。
アレは暖かいうちに食べたほうがうまい。
生唾を飲み込んだ音が聞こえたわけではないだろうが、シキは笑っていた。
子供をあやすように、ベッドの端に腰掛けてアキラの肩のあたりをぽんぽん叩く。
子ども扱いするなと怒鳴ってやりたい所であるが、彼の意識は兎に角食事にあった。



「デザートにオレンジもある」



だから出て来い、といわれている気分だった。
オレンジごときで釣られてたまるか。
アキラはそう思いながら、おずおず毛布から顔を出した。
シキは笑わない。
真剣な顔で、アキラを見ている。



「先に食べてろよ」
「一人で食べると旨くないといったのは誰だ」
「……何言ってるんだ、アンタは」



非常にシキらしからぬ発言である。
思わず困惑を顔に出したアキラの喉元を、シキの指先が撫でた。



「別に食器を片付けるのが面倒ともいえるな」
「…そっちが本音だろ」



呆れた、と肩を竦めて、アキラはベッドから抜け出した。
まだ少々ふらつく足元を気にせず、食卓に着く。
遅れてやってきたシキは、なにやら笑っていた。
アキラはそれを訝しく思いながらも、用意されていた箸を手にとって、言った。



「いただきます」



外見に反して、シキは味付けがうまかった。
これで神経質な性格だから、アキラとは違って細かく計算しているのかもしれない。
計量器具で砂糖やら牛乳やらを量るシキを考えると、なんとも妙な気分になるが。



「食べないのか」



アキラが食べる所ばかり見て、箸を動かさないシキに問う。
彼は暫しアキラを見つめていた。
やがて、一息ついてサラダに入っていたレタスを摘んで食べた。



「お前は単純だな」
「…は?」
「それが美点でもある」



オレンジがまだ残っていた、とシキは零し、席から立った。
流しに向かう途中、寝癖がついて跳ね上がったアキラの髪を引っ張ることを忘れずに。







流行りのブランチ





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あきゅろす。
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