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小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結

少し掠れたハスキーな声がして、湯気のたつカップを載せたワゴンを引きながら、黒髪の妖艶な美女が現れた。

「さっ、桜子(さくらこ)さまっ…!」
星が黎の腕の中から出ようともがく。

「今更でしょ、星。知らない仲じゃあるまいし、黎が煩くなるから黙って抱っこされておきなさいよ。…久しぶりね、主夜」

「ああ。桜子、お前ここにいていいのか?」

桜子は鬼王の一人娘だ。
やはり幼稚舎の仲間だが、次の鬼王となることが決まっている以上、一人で出歩くことはおろか、今頃は城の一室で学者たちを相手に帝王学の勉強をしていなければならないはずだ。

「今回は特別よ。父が表立って動けないから私が来たの。月(つき)が護衛についてくれたわ」

桜子の言葉が終わらぬうちに、体を屈めるようにして月が現れた。

手にケーキを載せた盆を持ったまま、主夜に一礼する。

月は身長2mを超える大男だ。
とても繊細な心を持ち、口数は少ないが発する言葉はいつも暖かく優しい。

黎の影として幼稚舎に入った月に桜子が惚れて、猛アタックをかけてモノにしたのだ。

その時、黎は月を手放している。

火のように激しい桜子と、大木のようにどっしり静かな月。
これはこれでお似合いのカップルだろう。

〈桜子は月と結婚するつもりのようだが…〉

月は影だ。
そんなに身分の高いほうではない。

娘に甘いことで知られる鬼王が二人の結婚をゆるしたとしても、王に仕える側近たちが黙っていないだろう。

もともと分家から出ている側近たちは、貴族以上の実権を握りたくてうずうずしている。

自分の息子と桜子を結婚させれば、それも夢ではないのだ。

鬼王の側近は、いずれ劣らぬ狸爺だ。
それらの顔を思い浮かべ、主夜は苦々しい気持ちになる。

〈月はくだらない側近たちの息子より、頭も良いし品格もある。鬼王がそれを見抜いて側近たちを黙らせてくれればいいが…〉

そう思いながら視線を巡らせると、星がソファに座った黎の膝の上にしっかりと抱えこまれている。

主夜の視線に気付いた星が、居心地悪そうにもじもじしても、黎は知らん顔だ。

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あきゅろす。
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