小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
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「そうだ」
よく覚えていたなと褒めると、紫陽が嬉しそうにニコッとした。
「神や鬼と同じく、妖もまたこの世が混沌として地も天もなかった時に生まれてきたと言われている。そう考えると神 鬼 妖の三者は、もとは同じものだったのかもしれないな」
「はい」
「もう一つ。この機会に教えてしまおう。そうすれば妖の勉強は終わりだからな。
750年前、人間は人間同士で大きな戦争をした。“世界”が神や鬼、妖を生み出した時の混沌とした様子に逆戻りしてしまったような、悲惨なものだったらしい。
その混沌の中から、新しい妖が生まれてきたと言われている。“世界”が生んだ最後の妖だ。
だが、その妖の姿を見た者は誰もいない。500年前の戦いのときにも、その妖の姿はなかった。
もしかしたら、これは作り話かもしれないな」
「はい」
「…さあ、このへんでいいだろう」
主夜が足を止めたのは、街並みの裏にある小さな空き地だ。
「紫陽」
怖がらせないようにゆったりと名を呼び、かわいらしい顔を仰向かせると、その額にそっと唇を落とす。
続いて、右手の人差し指と中指を、額の唇を当てたところに置き、フッと息を吹きかけた。
紫陽の額に、主夜の印である青い竜胆の花がぼんやりと光って浮き出てくる。
それを満足げに眺め、
「これでいい。今のお前は下妖からは見えない。声をたてずにそこの隅でじっとしていてくれ」
できるな?と尋ねると、紫陽の顔がこくっと上下に動く。
「いい子だ」
もう一度、額に唇を当ててから、紫陽を空き地の隅に押しやり、主夜は中央へと出た。
まず結界を張らなければならないが、まだ三匹の下妖の気配しかしない。
残りの一匹がこの空き地に入ってくるまで、待ったほうがいい。
主夜は、目を閉じあたりの気配を探る。
来た…。
最後の一匹が空地へと入ってきた。
ゆらゆらと揺れる、人型の薄っぺらい影。
頭部には目も耳も鼻もなく、あるのは真っ赤にはじけた大きな口だけだ。
歩き方は操り人形のように心もとないが、いったん喰らう目標を定めると、その動きは驚くほど速くなる。
主夜の唇から、高く低く口笛の音が出る。
それと同時に、空き地がすっぽりと乳白色のドームに包み込まれた。
あたりの気温が一気に低くなる。
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