小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
26
「あれを見るのは初めてか?」
「はい」
「怖いか?」
「はい。なんだか、背中が冷たくなります」
「大丈夫だ。俺がついている」
主夜は紫陽を怖がらせないように肩を抱いてやり、人気のないほうへとゆっくり歩き出した。
4匹の下妖が自分たちの後をついてくるのを、気配で感じる。
「妖には、燐(りん)と言う名の地底を統べる長と、それを支える2者がいる。その3者をまとめて主妖と呼ぶ。主妖は魂がないので死ぬことが無い。その主妖たちから、下妖は出てくる」
「出る…?」
「ああ、下妖は主妖の胸のところから湧き出てくるそうだ。そうして出てきた下妖は、地上で魂を喰らい、主妖のもとへ帰る。主妖は魂を喰らった下妖を吸収し、己の糧とする」
「と、共食いですか?」
「それとは少し違うと思うが…。下妖は主妖と違い、消滅させることができる。知能がなく、魂を喰らって帰り、主妖に吸収されることを無上の喜びとしている。強いものの魂や、変わった色の魂を喰らって帰れば主妖が喜ぶ。だから下妖はより強いもの、より変わった色の魂を持つものを先に狙うのだ。この場合、お前と俺だな」
「そんな。ぼくはともかく、主夜さまは鬼界の貴族なのに…」
「種族も、身分の上下も、奴らには関係ない。奴らにとっては全ての魂が喰いものだ。奴らより弱ければ喰われる」
紫陽の体がぶるっとふるえた。
それを宥めるように、主夜の手が優しく紫陽の髪を撫でる。
「500年前。俺が生まれる前までは、神 鬼 妖はそれぞれ天上 地上 地底を統べて平和に暮らしていた。妖は自分の身の回りの世話や地底での雑用に下妖を使い、今のように魂を喰らわせるようなことはしていなかった。
妖たちは死んだ者の魂を体内に取り込み、浄化して世に送り出す役割を、しっかりとこなしていた。
そして、死なないという利点を生かして、歴史や“世界”の意思を語る語り部として、たびたび天上や地上にやって来てもいた。
それが、500年前、いきなり下妖が生きた魂を喰らうようになった。神も鬼も人も、大勢の者が喰われてしまった」
「妖は、どうしてそんなことを…?」
「解らない。珠と玉の宿り手がその命と引き換えに、妖の長の力を奪い、赤子の姿にして地底に戻したそうだが…。その話はしたな?」
「はい、珠からは白い龍が、玉からは黒い鬼が出て、妖の長、燐と戦ったと…」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!